今夏、北京五輪は無事に開催されるのだろうか?
戦場と化す今年の「熱い8月」 7th TRIBECA FILM FESTIVAL——日本人女性監督が手掛けた1本 ●8月に開催される北京オリンピックのトーチリレー問題など、今、世界中で最も話題となっている渦中の「チベット」を扱った日本の女性新人監督、樂眞箏(ささ・まこと)のドキュメンタリー作品「Fire Under the Snow」が、5月4日まで開催中の「第7回トライベッカ・フィルム・フェスティバル/TRIBECA FILM FESTIVAL=TFF」に出品されている。内容は政治囚として中国の刑務所に33年投獄されていたチベットの高僧、パルデン・ギャツオ(Palden Gyatso)の服役中の体験を綴った本「雪の下の炎」(翻訳/檜垣嗣子、1998年新潮社発行=写真右)を映画化した話題の1本だ。また同映画祭では、ドキュメンタリー「The Dalai Lama: Peace and Prosperity」も上映される(トライベッカ・フィルム・フェスティバルに関する詳細は、コラム「tocoloco」参照)。 祖国と自由を愛する最もパワフルな男——パルデン・ギャツオ ●「雪の下の炎/Fire Under the Snow」の原作者、高僧パルデン・ギャツオ(写真左)についてだが、彼はダライ・ラマ14世ほど世に知られてはいないものの、同著は19か国語に翻訳され、チベットの独立を訴える講演を世界20か国以上で行っている。また2002年、当局に爆破事件に関与した容疑で拘束されている高僧トゥルク・テンジン・デレクの解放を求めて、高齢(当時71歳)ながらも「2か月間のリレーハンガーストライキ(2004〜05年)」を敢行するなど、祖国と自由を愛する最もパワフルな僧侶として評価されている。彼は国連を始めとする様々な国際フォーラムの場で、中国支配下で受けた自らの体験を語ってきた。その体験とは——。 パルデン・ギャツォは1933年、チベット中南部シガツェの東方パナムに生まれた。彼は7歳で門を叩きガドン僧院の僧侶となったが、26歳の時に政治犯として捕らえられ33年間もの長い間服役。その服役中の体験を綴ったのが「雪の下の炎」である。WEBサイト「チベットハウス」には彼が受けた拷問についての詳細が記されている。 中国は86年、国連の拷問禁止条約に調印している——しかし…… ●WEBサイトから要約した証言内容:「中国人は拷問の道具として使うための手錠をいくつか作り出した。『親指錠(写真右)』は親指を背中で括りつけるためのもので、それから囚人は尋問用の棒に天井から吊り下げられる。そのままの状態で、拷問者は火にあぶられ、赤唐辛子をくべられることもある(赤唐辛子を火で焼くと、すさまじく弾け散り、その煙で眼が痛み呼吸が出来なくなる)。パルデン・ギャツォは、天井から吊り下げられた状態で熱湯を浴びせられたと証言している。他にも様々な重さの『脚枷(足かせ)』も使われ、それをつけたまま重労働をさせられる。囚人たちはカーペット工場での労働を可能にするため、痛みに耐えながら地面に穴を掘らなければならなかった。最も苦痛を与える錠は『黄手錠』と呼ばれる自分を締め付ける手錠で、これは時間が経つごとにキツクなって来るもので、内側には鋭い歯がついており、それが手首に突き刺さって傷つけ、出血する。黄手錠をつけられると手首のまわりに水ぶくれができ、炎症をおこして火傷のよう傷跡がん残る」 中国政府によって行われた拷問の数々は、国連の拷問禁止条約(拷問とは肉体的、精神的に大きな苦痛を伴う行為が、意図的に、個人に与えられること)に違反するものである。中国は86年、国連の拷問禁止条約に調印している。しかし調印以降、拘留・監禁中に拷問死したチベット政治囚は確認されているだけでも60人にも上るという。写真はパルデン・ギャツオが解放された時に持ち出した拷問用具 当局はチベットへの弾圧を強めていくのだろうか——危ぶまれる「北京五輪」 ●「チベット」あるいは「ダライ・ラマ」について、一般的によく知られているのは、ブラッド・ピット主演のヒット作映画「セブン・イヤーズ・イン・チベット」(ジャン・ジャック・アノー監督/97年作品=写真左上)だろう。同作品は、アイガー初登頂で知られるオーストリアの登山家、ハインリッヒ・ハラーの自伝を映画化したもので、彼が14歳のダライ・ラマ14世と出会い、家庭教師となって14世と一緒に過ごした7年間の交流が描かれている。同映画は、中国人民解放軍によるチベットの軍事侵略や、紅軍兵士がチベッタンを虐殺するなどの演出がされていたとして、当然、中国では上映禁止となった。また、監督および主演のブラッド・ピットやデヴィッド・シューリスは、生涯中国への入国を禁止されているという。また以外と知られていないのが「セブン・イヤーズ・イン・チベット」と同じ年に公開された、巨匠マーティン・スコセッシ監督が手掛けた力作「クンドゥン」(97年作品=同左下)だ。クンドゥンとは御前様を意味し、チベッタンは彼をダライ・ラマとは呼ばず、クンドゥンと呼ぶ。同作品は、2歳の時にダライ・ラマの生まれ変わりとして見出された14世が、中国の侵攻によってチベットが修羅場と化していく17歳までの数奇な人生を描いたもので、98年度のアカデミー賞の4部門でノミネートされた。当然、その頃、ハリウッドと中国間で公開前から様々な駆け引きが展開された。中国は「クンドゥン」の配給会社ディズニーに対して、公開すれば今後ディズニーは中国市場を失うだろうと釘をさし、「セブン・イヤーズ・イン・チベット」については、登山家ハインリッヒ・ハラーは「ナチの信奉者」などとの情報を流した。しかしハリウッドはこれらの圧力に屈することなく両方を公開したのである。これらの映画公開から10年、北京五輪を夏に控え国際社会がまた注視する中、中国は依然チベットへの弾圧を強めていくのだろうか——(ダライ・ラマに関する詳細は、コラム「toco流」参照)。 過熱する反仏感情——その矛先は、いずれ日本に向かう気がする ●現在、緊張感が深まるフランスと中国間で、また今月21日、パリ市議会は「ダライ・ラマ14世を名誉市民とする」ことを賛成多数で可決した。14世の他にも、中国当局が今月3日に懲役3年6月の実刑判決を下した人権活動家の胡佳氏に対して、同様の名誉市民の称号を贈った。中国で反仏デモやフランス製品の不買運動が広がる中、さらに人民の間で反仏感情が過熱するだろう。今、人民の矛先がフランスに向けられているが、それらが、いつ日本へ向けられてもおかしくない。そもそも、反日感情をむき出しにしている若い人たちが多い中、ギョーザ問題や中国商品(製品)不買運動などを考えると、日中両国間がギクシャクするのも時間の問題であろう。 個人でできるチベット支援——知らなかったことを知るために ●ここニューヨーク市内には「チベット」をもっと知るための環境が整っている。市内15丁目にある「TIBET HOUSE GALLERY」では、5月1日(木)から7月1日(火)まで写真2人展「Vanishing Tibet」が開催される。写真家、ダニー・コナントとキャサリン・シュタインマンの2人撮ったチベットの数々が展示される(写真右)。同ギャラリーでは様々な美術品なども常設されており、WEBストアには高価ながらも、かなり芸術性が高いアクセサリー(写真左上=480ドル)なども販売されている。また、14丁目に本部がある「STUDENTS FOR A FREE TIBET」のWEBストアには学生らしいTシャツやトートバッグ(同左下=18ドル)、ステッカーなどが販売されている。どの団体もチベットへのドネーションを募っているが、商品購入という協力法もあるので興味を持たれた人は、一度足を運ばれるか各WEBサイトをチェックして下さい。 ■今回の特集で参考にした資料先一覧(以下の通り) ■ダライ・ラマ法王オフィシャルサイト=www.dalailama.com ■ダライ・ラマ法王日本代表部事務所=〒160-0022 東京都新宿区新宿5-11-30 第五葉山ビル5階、Phone:03-3353-4094、Fax:03-3225-8013、WEB:www.tibethouse.jp ■スチューデント・フォー・ア・フリーチベット=602 E. 14th St., 2nd Fl、Phone:212-358-0071、WEB:www.studentsforafreetibet.org ■チベット・ハウス・ギャラリー=22 W. 15th St.,、Phone:212-807-0563 、WEB:www.tibethouse.org ■インターナショナル・キャンペーン・フォー・チベット:www.savetibet.org 2008年4月25日号(vol.165)掲載 Copyright © 2000-2008 S.Graphics all rights reserved.
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| 2008-04-24 10:53
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