刑事訴訟法88条以下で保釈金の納付を条件に、拘置中の被告人を保釈できることが定められている。裁判所は保釈の請求を受けて、逃亡や証拠隠滅の恐れなどがないと判断すれば、保釈を認めるのが原則。保釈金3億円。かつて栄華をきわめたホリエモンこと堀江貴文被告(33=写真左)は、この3億円を小切手で即日納付したという。さて、この保釈金というシステム。どのように金額が設定され、このお金はどのように遣われるのだろうか——。
保釈金とは、保釈請求の際、保証金として裁判所に預けるお金。ごく一般の学生やサラリーマンが覚せい剤事犯などで拘置されている場合、150万〜200万円ぐらいが相場と言われている。方外ともとれるホリエモンの3億円だが、これでも流動性資金や年収を低く抑えていたことが関係して安い設定になっているという声もある。過去にも元自民党副総裁の金丸信(96年糖尿病悪化に伴う脳硬塞で死亡、享年81=写真右)が巨額脱税事件で同額の3億を支払って保釈されている。またロッキード事件の田中角栄元首相(93年脳硬塞で死亡、享年75=写真左)は彼らよりも下回る2億円。ムネオハウス疑惑で逮捕された現新党大地代表の鈴木宗男(58=写真右)は5000万円。しかし、上には上があるもので、牛肉偽装事件の元ハンナン会長、浅田満(67=写真右)は過去最高の20億円となっている。 さて、保釈金とは「裁判前に開放してあげる代わりにお金を預りますよ」というシステムで、裁判が終るまで逃亡しなければ、納付金は20億であろうと100万円であろうと全額返金される。要は、保釈される被告人が逃げられない程度の金額が設定され、すなわち犯罪の性質や被告人の性格、資産などを考慮し、過去の事例と照らし合わせて裁判所が金額を決定する。 起訴後、初公判までの間、被告人を拘留する理由は逃亡および証拠隠滅防止のためで、その恐れがなければ拘置は避けるべきという考え方に基づいて、一定の保証金を納め、条件付きで保釈は成り立つ。その際の条件が守られなかったり、 理由なく出頭に応じなかったりした場合のみ納付したお金は返されない。これが保釈の制度である。その条件とは以下のような内容で、該当する場合、保釈は認められない。 1)死刑、無期または1年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した場合 2)過去に、死刑、無期または10年を超える懲役・禁錮にあたる罪について有罪判決を受けていた場合 3)常習として、3年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した場合 4)罪証隠滅のおそれがある場合 5)被害者や証人に対し、危害を加えるおそれがある場合 6)氏名または住所が明らかでない場合 以上6項目が条件となる。これらの条件に当てはまらず、納付できる保釈金が揃えば晴れてシャバに出られるというワケだが、そもそも、この保釈金、現金を積まなくてもよい。後で返金して貰える訳だから、国債や弁護士の保証書などでも受理されるらしい。 しかし「例外」というものがある。1997年、保釈中に旅行先の韓国で行方不明となり、公判に現れず保釈金6億円が没収となったイトマン事件の許永中被告(59=写真左)がそれだ。それより保釈中に海外旅行などは可能なのか、という疑問が浮ぶが、それは裁判所から許可さえ下りれば問題なく渡航できる。国内旅行は大抵は認められ、海外は国内ほど簡単には許可されないが、それでも仕事などの特別な事情があれば飛べるらしい。許永中は「弁護士の保証書」で保釈され、韓国へ逃亡。保釈取り消しによる身柄拘束までの2年間潜伏を続けた。2001年に懲役7年6か月・罰金5億円の実刑判決を言い渡されたが上告。2005年10月に棄却され実刑が決定し現在服役中である。また保釈当時、公判に現れず没収となった6億円を肩代わりさせられた弁護士が許を訴えている。 このような大掛かりな事件は少ないが、最近はオレオレ詐欺で知られる「振り込め詐欺」などで保釈金を騙す手口もよく登場するらしい。拘置中の暴力団組員が看守に差し入れさせた携帯電話で、弁護士事務所職員を装い、保釈金と偽って1300万円を騙し取る事件もあるという。 要するに保釈金は、その被告に対する「人間の価値を試算した金額」と言っても過言ではない。そういや先頃、タイム誌が特集「世界で最も影響力のある100人」で、P・ディディを3億1500万ドル(約360億円)と試算していた。こうなるとケタハズレだが、ここで思い出されるのが北米トヨタの「セクハラ訴訟」だ。 これは、北米トヨタ自動車の元社長秘書の日本人女性、小林さやかさん(42=写真左)が、上司である同社社長、大高英昭(65=写真右下)からセクハラ(性的嫌がらせ)を受けたとして、日本のトヨタ本社、北米トヨタおよび同社長の3者を相手取り、懲罰的な賠償を含め総額1億9000万ドル(約215億円)の損害賠償を求める訴えをニューヨーク州地裁に起こしたというもの。同社長は既に5月8日付けで辞任している。 訴えによると、小林さんは97年北米トヨタに入社し、05年3月から社長付けの秘書となった。同年秋、社長に同行した出張先のホテルの部屋やニューヨークのセントラルパークで、身体をつかまれるなどのセクハラ行為を受けたというもの。その後、小林さんは社内幹部に相談したが、社長本人との話し合いを促されるなど、会社としての対応が不適切だったとしている。アメリカの一部のメディアでは「ハイブリッドではなくセックスを燃料とするクルマ」の見出しをつけて一面トップで報じられるなど、アメリカでもこのセクハラ訴訟に関する反応は過剰だ。また15日付けのウォールストリート・ジャーナルでは、アメリカの法律や慣習は日本に比べてセクハラに厳格とし、もし女性社員にお茶くみをさせればアメリカ人スタッフは不愉快に感じるだろうと報じている。そして今回、特に注目を浴びたのは「幹部が社長と一対一で話し合うよう求めた」とされる点で、同紙ではセクハラ問題の解決手段として「最もまずいやり方」と指摘している。大高元社長はセクハラの事実を否認しているが「懲罰的賠償金請求」が当然のごとく行われるアメリカでの判例を見ると、企業側が敗訴するケースは圧倒的に多く、今回のケースもこれまでと同様、215億円という請求額がそのまま認められる可能性は高い。 しかし、この金額。一体どうやって215億円もの額を算定したのだろうか。トヨタはフォーブス誌が選ぶ「アメリカでもっとも尊敬できる企業ランク」に日本企業として初のトップ10入りを果たすなど、これまで社会貢献、優良企業というイメージが強かった。同訴訟によりトヨタが被った「イメージ失墜」というダメージは大きく、この苦境にトヨタがどう対応するかによって年後半の業績にも大きく響き、当然、株価への影響も必須だ。米国三菱自動車もまた1998年にセクハラ訴訟で、300人もの女性従業員から差別の行政救済機関EEOCを通じて訴えられ、和解金3400万ドル(約37億円=被害の程度によって全員に分配)を支払った経緯がある。さて、今回の小林さんのケース。一般庶民としては、この試算した金額の算定方法が気になるが、215億円という損害賠償金が方外であろうがなかろうが、また示談となった場合の金額が如何程であろうが、いくら気になったとしてもこれらの行方、詳細は今後も明らかにされないことだろう。あ〜、知りたいっ! 2006年5月31日号(vol.123)掲載 Copyright © 2000-2006 tocotoco, S.Graphics all rights reserved.
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