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vol.131/最悪—17<黒須田 流>

 唯のほかに、これといった知り合いもなく、勝手もわからない「東京」で、ケンは、独りぼっちになった。
 「さて、どうするか」と、考えたところで、すぐに名案が浮ぶはずもない。
 ポケットには、唯から貰った20万がある。とりあえず、ケンは、いつものように、ぷらぷらとパチンコ屋に行った。
 その当時、流行っていた「モンスターハウス」という機種が、ケンのお気に入りだった。
 台に座ると、「フランケン」でも「ドラキュラ」でも「オオカミ男」でもなく、いきなり「7」が揃った。 
「確変」である。椅子の両脇にドル箱がどんどん積まれていった。「確変」は、14連チャンで終了した。その店は、「等価交換」ではなかったが、10万以上にはなった。
 これで、軍資金は、全部で、30万は有る。

 ケンは、名古屋に帰ることも考えたが、その前に、東京で、行きたい場所があった。
 それは、東京の「風俗店」だった。
 これまでも、興味はあったが、唯がバイトで稼いだカネで、風俗遊びをするのは、なんとなく気がひけたし、それに、「唯」という存在がいたので、性欲は満たされていた。
 今は、誰にも気兼ねすることなく、風俗に行ける。そう思うと、ケンは、少し、気分が軽くなった。

 「吉原」という地名も知ってはいたが、田舎者のケンにとって、「風俗」と言えば、やはり「歌舞伎町」だった。
 ケンは、下北沢の駅から、小田急線に乗り、新宿に向かった。
 
 ケンは、ヘルスのキャッチに、声をかけた。
 普通、キャッチには、声は「かけられる」もので、「かける」のは珍しいことだが、ケンは、入ろうとした店の従業員に、「ノー、ノー、オンリー、ジャパニーズ!」と、断られたので、逆に、自ら、声をかけたのである。
 
 店内に入ると、何十枚ものポラロイド写真が壁に貼ってあった。
 出勤しているオンナのコの写真の上には、ピンクのリボンが付いていた。
 料金表には、45分コース7500円、60分コース9000円、90分コース12000円、と、書いてあった。
 ケンは、60分コースを選んだ。
 マネージャーらしき男が、寄ってきて、
 「今すぐでしたら、マリちゃんが、空いてますけど」と、言った。
 ケンは、「じゃあ、マリちゃんで、お願いします」と、応えた。
 個室で待っていると、マリが、入って来た。
 ケンの顔を見て、
 「うわっ」と、驚いた。
 「お客さん、日本人?」マリが、訊いた。
 「そうだよ。まあ、半分だけどね」ケンは、笑った。
 「カッコイー」マリは、喜びの声をあげ、
 「よーし、今日は、思いきり、サービスしちゃうぞぉ」と、ケンの股間に触った。
 ケンが、対応に困っていると、マリは、
 「まあ、一応、おシゴトだから、どんなお客さんでも、それなりに満足させるサービスするけどさぁ、やっぱ、こっちだって、カッコイイ人の方が、いいもんね」と、言いながら、ケンの服を脱がせた。 
 裸になり、腰にタオルを巻いたケンの右手をにぎり、マリは、シャワールームに連れて行った。

 そこで、マリに全身を洗ってもらい、個室に戻った。
 ケンは、仰向けで、ベッドに横たわった。マリは、ケンの上に跨がると、顔を近づけ、キスをした。それから、目蓋に始まり、首筋、鎖骨、乳首と、舌を這わせた。
 ケンが、思わず、「うっ」と、声をもらすほど、舌は、巧みに弧を描きながなら、徐々に下へと向かい、わざとケンの期待を逸らすかのように、核心の部分を避け、今度は、膝から、太腿を舐めた。
 マリは、ケンのパンパンになったディックを見て、
 「うっそ。スッゴイ、スッゴイ」と、言いながら、ゴムも着けず、パクりと、口にくわえ込んだ。
 マリの舌が、どう動いているのか、わからない。ケンは、意識が朦朧とするぐらいの快感を覚えた。
 マリは、ディックから口を外して、「しちゃおっか」と、ケンの耳元でささやいた。
 ケンは、横になったまま、コクリと頷いた。
 すると、マリは、「だーめ。あとで」と、悪戯ぽっく笑った。
 ローションを塗り、マリは、ケンのディックを太ももに挟むと、上下に体を動かした。
 とろけそうな快のなかでケンは、弾けた。

 「ねえ、ねえ、なんで、そんなにカッコイイのに、こんなトコ来たの?」
 いかにも不思議だ、といった表情で、マリは、訊いた。
 「『なんで』って……」ケンが、まだ、ぼーっとしていて、上手く応えられないで、いると、 
 「ねえ、どっか、遊びに行かない?お店には、『体調悪い』って、早退するからさあ」と、ケンを誘った。
 ケンには、なにも予定はない。予定どころか、今日、寝る所も決まっていない。
 「べつに、いいけど……」ケンは、応えた。
 「うっそ。マジで!」マリは、本当に嬉しそうな笑顔になった。
 「う〜ん。じゃあ、どうしようか……そうだなあ、1時間……ううん、1時間半後に、どこかで待ち合わせしようよ。どこがいい?」と、ケンに、委ねた。
 そう、訊かれても、ケンは、新宿を、ほとんど知らない。それに、1時間半も時間を潰すとなると、パチンコ以外に思い浮かばかなかった。
 ケンは、さっき、この店まで歩いている間に、パチンコ屋があったことを思い出し、そこにいるから、終ったら、ケータイに電話してくれと、言った。
 マリは、「あぁ、あそこパチンコ屋ね。オッケー」と、すぐに理解した。

 店から出ると、ケンは、待ち合わせ場所のパチンコ屋に行った。
 ケンは、マリが、来ても来なくても、どちらでもよかった。
 ただ、なんとなくだが、マリが、冗談で言ったようには思えなかった。
 そして、ケンは、自分の勘が外れていなければ、マリとは、共通の嗜好があると、踏んでいた。
 来るか来ないかよりも、むしろ、そちらの方が、確かなような気がした。

 ケータイは、鳴らなかった。
 やっぱり、からかわれたのか……、と、思いながら、パチンコのドラムが回るのを眺めていると、突然、目の前が見えなくなり、手の温もりを感じた。
 振り返ると、マリが立っていた。

 二人は、外に出た。マリが、スッと腕を組んできた。
 ケンは、朝から何も食べていないことに気付き、急に、空腹を覚えた。
 「なんか、メシ、食いに行くか」ケンは、言った。
 「何に、する?」と、マリが、訊いた。
 「そうだなあ、なんでもいいけど、できれば、どっか、景色がいい所がいいな」
 ケンは、「新宿」という街を、高い場所から、見てみたかった(続く)。
(原文まま)
*掲載号では、校正、編集したものを発行*
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2006年10月27日号(vol.133)掲載
by tocotoco_ny | 2006-10-27 03:04 | アンダードッグの徒
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