唯のほかに、これといった知り合いもなく、勝手もわからない「東京」で、ケンは、独りぼっちになった。
「さて、どうするか」と、考えたところで、すぐに名案が浮ぶはずもない。 ポケットには、唯から貰った20万がある。とりあえず、ケンは、いつものように、ぷらぷらとパチンコ屋に行った。 その当時、流行っていた「モンスターハウス」という機種が、ケンのお気に入りだった。 台に座ると、「フランケン」でも「ドラキュラ」でも「オオカミ男」でもなく、いきなり「7」が揃った。 「確変」である。椅子の両脇にドル箱がどんどん積まれていった。「確変」は、14連チャンで終了した。その店は、「等価交換」ではなかったが、10万以上にはなった。 これで、軍資金は、全部で、30万は有る。 ケンは、名古屋に帰ることも考えたが、その前に、東京で、行きたい場所があった。 それは、東京の「風俗店」だった。 これまでも、興味はあったが、唯がバイトで稼いだカネで、風俗遊びをするのは、なんとなく気がひけたし、それに、「唯」という存在がいたので、性欲は満たされていた。 今は、誰にも気兼ねすることなく、風俗に行ける。そう思うと、ケンは、少し、気分が軽くなった。 「吉原」という地名も知ってはいたが、田舎者のケンにとって、「風俗」と言えば、やはり「歌舞伎町」だった。 ケンは、下北沢の駅から、小田急線に乗り、新宿に向かった。 ケンは、ヘルスのキャッチに、声をかけた。 普通、キャッチには、声は「かけられる」もので、「かける」のは珍しいことだが、ケンは、入ろうとした店の従業員に、「ノー、ノー、オンリー、ジャパニーズ!」と、断られたので、逆に、自ら、声をかけたのである。 店内に入ると、何十枚ものポラロイド写真が壁に貼ってあった。 出勤しているオンナのコの写真の上には、ピンクのリボンが付いていた。 料金表には、45分コース7500円、60分コース9000円、90分コース12000円、と、書いてあった。 ケンは、60分コースを選んだ。 マネージャーらしき男が、寄ってきて、 「今すぐでしたら、マリちゃんが、空いてますけど」と、言った。 ケンは、「じゃあ、マリちゃんで、お願いします」と、応えた。 個室で待っていると、マリが、入って来た。 ケンの顔を見て、 「うわっ」と、驚いた。 「お客さん、日本人?」マリが、訊いた。 「そうだよ。まあ、半分だけどね」ケンは、笑った。 「カッコイー」マリは、喜びの声をあげ、 「よーし、今日は、思いきり、サービスしちゃうぞぉ」と、ケンの股間に触った。 ケンが、対応に困っていると、マリは、 「まあ、一応、おシゴトだから、どんなお客さんでも、それなりに満足させるサービスするけどさぁ、やっぱ、こっちだって、カッコイイ人の方が、いいもんね」と、言いながら、ケンの服を脱がせた。 裸になり、腰にタオルを巻いたケンの右手をにぎり、マリは、シャワールームに連れて行った。 そこで、マリに全身を洗ってもらい、個室に戻った。 ケンは、仰向けで、ベッドに横たわった。マリは、ケンの上に跨がると、顔を近づけ、キスをした。それから、目蓋に始まり、首筋、鎖骨、乳首と、舌を這わせた。 ケンが、思わず、「うっ」と、声をもらすほど、舌は、巧みに弧を描きながなら、徐々に下へと向かい、わざとケンの期待を逸らすかのように、核心の部分を避け、今度は、膝から、太腿を舐めた。 マリは、ケンのパンパンになったディックを見て、 「うっそ。スッゴイ、スッゴイ」と、言いながら、ゴムも着けず、パクりと、口にくわえ込んだ。 マリの舌が、どう動いているのか、わからない。ケンは、意識が朦朧とするぐらいの快感を覚えた。 マリは、ディックから口を外して、「しちゃおっか」と、ケンの耳元でささやいた。 ケンは、横になったまま、コクリと頷いた。 すると、マリは、「だーめ。あとで」と、悪戯ぽっく笑った。 ローションを塗り、マリは、ケンのディックを太ももに挟むと、上下に体を動かした。 とろけそうな快のなかでケンは、弾けた。 「ねえ、ねえ、なんで、そんなにカッコイイのに、こんなトコ来たの?」 いかにも不思議だ、といった表情で、マリは、訊いた。 「『なんで』って……」ケンが、まだ、ぼーっとしていて、上手く応えられないで、いると、 「ねえ、どっか、遊びに行かない?お店には、『体調悪い』って、早退するからさあ」と、ケンを誘った。 ケンには、なにも予定はない。予定どころか、今日、寝る所も決まっていない。 「べつに、いいけど……」ケンは、応えた。 「うっそ。マジで!」マリは、本当に嬉しそうな笑顔になった。 「う〜ん。じゃあ、どうしようか……そうだなあ、1時間……ううん、1時間半後に、どこかで待ち合わせしようよ。どこがいい?」と、ケンに、委ねた。 そう、訊かれても、ケンは、新宿を、ほとんど知らない。それに、1時間半も時間を潰すとなると、パチンコ以外に思い浮かばかなかった。 ケンは、さっき、この店まで歩いている間に、パチンコ屋があったことを思い出し、そこにいるから、終ったら、ケータイに電話してくれと、言った。 マリは、「あぁ、あそこパチンコ屋ね。オッケー」と、すぐに理解した。 店から出ると、ケンは、待ち合わせ場所のパチンコ屋に行った。 ケンは、マリが、来ても来なくても、どちらでもよかった。 ただ、なんとなくだが、マリが、冗談で言ったようには思えなかった。 そして、ケンは、自分の勘が外れていなければ、マリとは、共通の嗜好があると、踏んでいた。 来るか来ないかよりも、むしろ、そちらの方が、確かなような気がした。 ケータイは、鳴らなかった。 やっぱり、からかわれたのか……、と、思いながら、パチンコのドラムが回るのを眺めていると、突然、目の前が見えなくなり、手の温もりを感じた。 振り返ると、マリが立っていた。 二人は、外に出た。マリが、スッと腕を組んできた。 ケンは、朝から何も食べていないことに気付き、急に、空腹を覚えた。 「なんか、メシ、食いに行くか」ケンは、言った。 「何に、する?」と、マリが、訊いた。 「そうだなあ、なんでもいいけど、できれば、どっか、景色がいい所がいいな」 ケンは、「新宿」という街を、高い場所から、見てみたかった(続く)。 (原文まま) *掲載号では、校正、編集したものを発行* *お知らせ* 同コラムのバックナンバーは「アンダードッグの徒」のオフィシャルサイトの書庫に第1回目から保管してあります。お時間のある方は、そちらへもお立ち寄りください 2006年10月27日号(vol.133)掲載
by tocotoco_ny
| 2006-10-27 03:04
| アンダードッグの徒
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