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vol.50/大人の童話<むかでのすきっぷ>

その1 捨て猫(2)
 でも、だんだんおしっこが我慢出来なくなって来ています。
 ぼくが家に帰れば、子猫はおぼれて死んじゃうな。でも、おもらししたらお母さんにしかられるし、どうしよう。
 たくや君は本当に困りました。
 でも、あの子猫にもお母さんがいて、待っているかも知れないな。いまごろお母さんは心配してあたりを探しているかも知れない。ぼくのお家はもうすぐだし、助けてあげよう。
 そう思うとたくや君は橋の入り口まで戻って川への下り口を探しました。
 どこにもありません。
 川までは自分の背の倍位あります。
 子猫は又泣きました。
「みっ、みっノノ」
 大変です。子猫は我慢できなくなって、首のところまで水につかってしまっています。
 ときどき水をのんで苦しそうにしています。
 たくや君は土手の柵を乗り越えて、川まで一気に飛び降りました。
 とびおりたショックで、たくや君はとうとう我慢していたおしっこを漏らしてしまいました。
 くつは川べりの土にはまって、どろだらけです。ランドセルのノートが、どろの上に落ちてしまいました。
 でも、たくや君は急いで子猫のところに走りました。まだ生きていてよ。
 やっとの事で子猫を助け上げると、たくや君はぶるぶる震えている子猫をしっかりと抱いてあげました。子猫は川の水と同じ位つめたくなっていました。
 通りかかった人に川からの登り口を教えてもらって、たくや君は家に急ぎました。
 走っていると靴の中に入った泥がぐちゅ、ぐちゅと音をたてて、気持ちが悪いなと思いましたが、腕の中には子猫が、自分のセーターに爪をたてて引っ張っています。急がなくちゃ。
「もうすぐだからね、死んじゃだめだよ」と話しかけながら、たくや君は走りした。
 やっとの事でお家についたたくや君を見て、お母さんは言いました。
「まあ、その格好は何なの?靴も泥だらけじゃない。それにその猫はどうしたの?」
 たくや君はうまく説明が出来なくて、「この子猫、家で飼ってもいい?」とお母さんに聞きました。
「だめよ、そんな汚い猫なんて、絶対だめよ、もといたところに返しておいで」
「でも、川に落ちてたんだよ。元気になるまで、家で面倒みなくちゃ死んじゃうよ」
 お母さんは困り顔で、どうしたものか思案にくれていました。
 夜になって、お父さんが帰って来ました。
 たくや君は今日あった出来事を全部お父さんに話しました。それから、おしっこの事も話しました。
「そうか、おしっこよりも動物の命の方が大切だからな」
 お父さんは言いました。
「それなら、お前の誕生日プレゼントだ。飼ってもいいぞ。ただし、ちゃんと面倒はみるんだよ。」
 お母さんもとうとう笑って許してくれました。
 たくや君はうれしくなってお母さんとお父さんに抱きつきました。
 それから、子猫はみるみる元気になり、皿についであげたミルクも全部飲めるになりました。
 たくや君が歩くと、足にすり寄ってしっぽを立てて、ごろごろ言いながらついて来ます。
 たくや君は勉強する時も、外でボール遊びをする時も、家でご飯を食べる時もいつも子猫と一緒です。
 ある日、とつぜん子猫がいなくなりました。
 たくや君は必死になってあたりを探しましたが、どこにも子猫はいません。
 夕方になるまでたくや君は子猫を探しました。
 犬に噛みつかれて怪我してるのかな、それとも車にひかれてしまったのかな。
 たくや君はそう考えると、いてもたってもいられませんでした。
 それとも、又橋から落ちて….。
 たくや君はあわてて橋に走って行って、川の方をよく見ました。
 どこにも子猫はいません。(次号に続く)
*掲載号では、誤字、脱字は校正し、編集したものを発行*
2007年4月27日号(vol.143)掲載
by tocotoco_ny | 2007-04-25 04:03 | ご無沙汰むかで
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