vol.153/表紙「SAGGING PANTS」

'Pull 'em up or pay up.
どこまで広がる?「SAGGING PANTS」規制
■遂に、個人のファッションにまで規制が及んだアメリカ。今年6月、ルイジアナ州デルカンバーで「SAGGING PANTS=腰パン」禁止条例が施行されてから3か月経ったこの9月、続いて同州マンスフィールドでも同条例が開始された。「'Pull 'em up or pay up.」(ズボンを)引っぱり上げる?それとも(罰金を)支払う?をスローガンに、この余波はラッパーの聖地とも言える南部エリアへも拡大しつつあり、既にジョージア州アトランタでも導入が検討されている。f0055491_2532296.jpg
 このSAGGING PANTS禁止論が浮上した要因として「だんだん過激になり、下着どころか、尻まで露出する若者が増えた」「公然わいせつである」という声が上がってきたことにある。なるほど、最近のラッパーたちのスタイルも「腰パン」と呼べる様なナマ易しいスタイル(ズルっと軽く下げた感じ)ではなく、下着こそ着けているものの、尻部分は全て丸出し(太ももの付け根の位置にジーンズのウエスト部分が来る)状態にある。TVのミュージックアワード番組でも、彼らがジーンズの前部分(ジッパー部分)を抑えながら、後ろはパンツ(下着)丸出しで舞台を駆け回る映像が、堂々と全米ネットワークで映し出されているのが現状だ。同州では同条例を違反した者は最高で罰金500ドル、禁固6か月を伴う場合もあると定めている。
 同規制に対して当たり前過ぎるが、当然「黒人文化への不当差別」の声は上がった。規制対象となるのは黒人の若年層が大半だからだが、その一方、オバマ氏(大統領候補)の用な政治に関わるインテリ層の黒人からは賛成の意見が相次いでいるのも今の黒人社会である。事実、アトランタ市議会で、同条例をアトランタでも施行すべきと提案した市議4人はいずれも黒人であり、これらの問題を「人種差別」として取り上げて考えるのも、今や短絡的過ぎる課題である。
 そもそもSAGGING PANTSのルーツは、刑務所で事故防止を理由に、囚人たちに大きなサイズの囚人服をベルトなしで着用させていることに始まる。すなわち、このSAGGING PANTSスタイルは「ムショ帰り=箔が付く」の象徴で、それらをクールとする黒人間でブームとなり、さらにヒップホップ文化が盛んになった昨今、そのファッションは世界中に蔓延り、今や日本の若者の間でもジーンズをズルッとずらして下着を見せるに至っている。f0055491_254376.jpg
 私個人としては、このスタイルが良いか悪いかが問題ではなく、個人のファッションに規制が及ぶことに危機感を覚える。例えば、女性の服装に関して「胸の谷間が見えるスタイル」が、一部の都市で公然わいせつとして規制され始めるのと同じである。パンティ(下着)が見えそうなギリギリラインのミニスカートはどうだろう。とは言え、最近のギャルズ(ブリットニーなどアメリカのセレブたち)は、その下着をも身に着けないことがお約束(クール)らしいが……。昔では考えられなかったペラペラのキャミソール1枚で、ブラジャーの肩ヒモと2本、肩に並べて外出するのも時の流れ、「見せる下着」もトレンドのなせる技である。これらは個人的な趣味趣向の範囲ではあるが、確かに自分の嫌いなタイプの人がこれらのスタイルを取り入れていたら、はっきり「NO!」「勘弁してくれ〜」「見たくないっー」「公害だ!」のノリである。ボディが引き締まったナイスガイがズルッとジーンズを下げて腰骨から下の位置で履き、下着のパンツを見せていても気にはならないが、デブデブな族の白い半ケツ状態はおぞましく、見たくもない(写真左)。これが普通の人の心情だろう。f0055491_255826.jpg
 これら規制騒動の中で、最もバカらしいコメントは「腰パンは体に悪い」というドクターの意見を取り上げていたニュースだ。「腰骨の下の感覚神経を圧迫し続ける腰パンは体に悪い」と、如何にも警告するような口調だが、こんなコメントを起用し「体に悪いからやめましょう」といった括りにして、さも尤もらしくコトをお座なりに修めようとする局側の感覚を疑う。話は逸れるが、あるファッション業界のゲイの人の個人サイトで、同問題について「So which is it?Gay fashion design or macho"Gangsta"chic?」(ゲイファッションでいく?それともマッチョなギャングスターを選ぶ?)という下りで、2つのタイプの画像(写真右)を並べて掲載している人がいた。なるほど、ゲイの人は、タイトかつ美的に露出するファッションを好みがちである。写真右側にある(下着を身に付けていない)ファッショナブルなタイプが、それかどうかは分からないが、同コラムでは、初めにこの手のファッションパンツを手掛けたのはAlexander McQueen(アレキサンダー・マックィーン)で、90年代半ばに「bumster」の名前で発表していると書かれてあった。そして括りとして「いずれにしても、ファッションとは何かのアクシデントを産み出したり、常に注目されるモノなのである。だから私は作り続けたい」と結んでいた。これが作り手側の素直な意見であろう。
 70〜80年代は体形を強調するピチピチタイプ、そして2000年以降はダブダブなバギータイプ。すべてブラック・アーバン・カルチャーから産み出された流行であるが、白人、アジアン、ヒスパニックと人種を問わず「マネる」ことがクールに繋がるとしている今の世の中にあって、同規制が「人種差別」に当たるとか「カラダに悪い」といった方向性の違うところでいくら論議しても、全く無意味だと思わずにはいられない——。

2007年9月28日号(vol.153)掲載
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by tocotoco_ny | 2007-09-26 02:56 | 2007年1〜12月号
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