vol.150/ええじゃないか<友野コージ>

 僕の故郷は神奈川県の大磯というところで、東京から1時間ほどで行ける場所にしては、自然がいっぱい残っているのどかで穏やかな町である。高校を卒業してからは東京で一人暮らしをはじめたので、もう今や東京での生活の方が長くなってしまったが、たまに実家に帰ると「いい町だなあ」と実感する。実家から5分も歩けば海もあり山もあり、いまだにデパートのひとつもない田舎町であるが、それでも僕が住んでいた頃よりは住宅が多くなった。かつては森や空き地だった場所が、新興住宅地になってきている。そして最近実家に帰って目につくのが「マンション建設反対」といった貼り紙である。確かに僕だって、せっかくのどかで自然の多い町に新しい住宅があまり建てられることなく、昔のままであって欲しいという気持ちはある。しかし、だからといって、なんで先に住んでいるものが権利者のような大きな顔をして「反対」などと言えるのだろうか。もしも反対運動を起こしている人々が伝統を重んじる人ならば、どれほど昔の伝統を守って生きているのか。社会のルールや国の方向性を考えるときに、現在生きている有権者のみならず、死者の想いというものをどれだけ受け継いで意見を言っているのだろうか。とことん伝統を重んじている一貫として、マンション建設に反対しているなら納得もできるが、そうとは思えない。たかだか一世代か二世代前からその場所に住んでいるからといって、どうして新しい建築物、ひいては新しく移り住んでくるものたちに対して、反対などと言えるのだろうか。それは、ちょっと恋愛の構図にも似ている。たかだが、半年前だか一年前だかに女性と恋人同士になると、別の男がその恋人にちょっかいを出すとまるで権利者のように「俺の彼女にちょっかいを出すな」と怒ることに似ている。人間は好きな異性を独占したい生き物であるから、怒ったっていいし殺し合いをしたって構わない。僕が問題にしているのは、先に付き合っているものが「権利者」のように優位な立場で文句を言うことがおかしいと言っているのだ。
 さて、話は住宅に戻るが、現在東京の武蔵野市で、漫画家の楳図かずおの建てた建築物が物議をかもしている。その建物には彼のテーマカラーである、赤白の横線が入った外観になっている。これが美観を損ねるだとか、不快な気持ちにさせるという理由で建築反対運動が起きているのだ。しかし、その建築は建築法にも違反していないし、裁判所も問題ないという判決を下している。なんで人が自分の土地に建てたものについて、そこまで文句を言うのだろうか、僕は理解に苦しむ。たとえば悪臭を放つとか騒音が激しいという現象は、かなり客観性を持った現象であり、周辺に迷惑をかけているという客観的事実を証明できるものだと思う。しかし、建築物の外観のデザインに関しては、何が好ましくて何が好ましくないかは、主観に委ねられるものであり、その主観的判断を先住民の正当な権利のように反対することが僕はおかしいと思うのだ。ところで、ニュースなどで周辺住民にインタビューすると、必ずしも反対の人ばかりではない。なかには「楽しい気分になって、好ましい」と肯定的な住民だっている。結局こういうことは、大きな声で「反対」を唱える人々ばかりが目立つものだから、マジョリティーが反対しているような雰囲気が醸成されてしまうが、実際はそうではないのだ。ただ、肯定する人は大きな声で「賛成」とは言わないから、反対の声が目立ってしまう。世の中にはこういうことが多くあるのだと、僕は改めて思うのだ。どんなことでもいいが、たとえば政治家が暴言を吐いたと、問題になるとする。するとそれを許せない人々がインタビューされる。「とんでもない発言だ。大臣の資格がない」となる。それをマスコミはあおる。でも実は、「別に騒ぐほどのことじゃないよ」と思っている人だっているはずなのだ。たとえば、ニューヨークの州知事が買春をしたとして非難される。この知事はヒラリークリントンの支持者だったので、オバマサイドが非難して選挙戦を有利に運ぼうとするのは理解できる。また知事の妻が悲しむのもわかる。あるいは女性の多くは軽蔑のまなざしを向けるかもしれない。しかし、なかには、別に大した問題じゃないよ、と思っている人だっているはずだ。しかし、そういう声はなかなか聞こえてこない。
 僕はことの成否や善悪を問題にしているのではない。誰かが非難にさらされているときに、非難する必要はないと思っている人がいるなら、声をあげていくべきなんではないかと思っているのだ。そうしないと、非難された者は、世の中のすべてを敵にまわしてしまったかのような、恐ろしさを感じてしまうと思う。
 幕末の民衆運動で「ええじゃないか」という仮装しながらバカ騒ぎする運動があったが、そういうことがあってもいいと思う。取り急ぎ、僕はこの場で言うことにする。「新しくマンション建てたって、ええじゃないか」「赤白の建築物だって、ええじゃないか」「石原都知事や橋本大阪府知事の発言も、ええじゃないか」「ニューヨーク州知事の買春も、ええじゃないか」「俺とセックスしてくれても、ええじゃないか」。
(原文まま)
*掲載号では、誤字、脱字は校正し、編集したものを発行*
*友野康治オフィシャルサイト「LOVE MYSELF」へもお立ち寄り下さい。
2008年3月28日号(vol.163)掲載
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by tocotoco_ny | 2008-03-27 14:08 | ニッポンからの手紙
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