New Directors/ New Films
メジャー監督への登竜門 市内2か所で4月6日(日)まで開催 ■今年もまた、恒例「ニューディレクターズ/ニューフィルムズ」が4月6日(日)まで開催されている。同映画祭はリンカーン・センター(The Film Society of Lincoln Center and Department of Film)とMoMA(The Museum of Modern Art)が共催で繰り広げる国際的なショーケースで、世界各国の奇才な新人映画監督が放つ、異色映画が観られるとあって人気も異常に高く、春一番のお楽しみの1つとして同イベントを毎年心待ちにしている映画ファンは多い。同映画祭は、スティーブン・スピルバーグやスパイク・リー、ウォン・カーウァイなど、数々の巨匠を輩出する「メジャー監督への登竜門」となるため、同映画祭で選ばれた新人監督たちも気合いの入った力作を発表、今後の期待へと胸を膨らませる。 さて、今年エントリーされた26人の新人監督(作品)の中で、tocotocoとしては、どうしても気になる唯一の日本人女性監督、荻上直子(おぎがみ・なおこ/写真右)にスポットを充ててみたい。 ちょっとシュールな演出がイン 「ユル~イいい感じ」が短絡的なアメリカ人に伝わる? ■南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画製作を学んだという荻上直子監督は千葉県出身の36歳。千葉大学工学部画像工学科を卒業後、1994年から2000年までの約6年間、本場ハリウッドで経験を積み、帰国した翌2001年に発表した自主製作映画「星ノくん・夢ノくん」で、いきなり「ぴあフィルムフェスティバル」で音楽賞を受賞した逸材である。2003年、デビュー作「バーバー吉野」はスカラシップ権利を得て制作した作品で、ちょっとシュールな「吉野刈り」(ピッチリ揃った前髪のオカッパ頭)というヘアースタイルを打ち出すなど、ユーモア溢れるコメディーセンスを持つ数少ない女性監督として話題となり、同作品で「ベルリン映画祭」児童映画部門特別賞を受賞している。続いて翌04年に発表した2作目「恋は五・七・五!」は、愛媛県松山市で毎年開催されている「俳句甲子園」を題材にした作品で、人気漫画をTVドラマ化して視聴率を稼ぐ「今どきのTVドラマ」でもよく使われている帰国子女が主人公のストーリー。常に、時流の先をいく彼女が手掛けた青春ラブコメディーは、当時の高校生たちにもウケ入れられ、携帯メールで「恋を俳句にのせる」というプチ俳句ブームまで起こした。そして、未だにDVDが売れ続けているという大ヒット作品「かもめ食堂」(06年)は、日本人女性が経営するフィンランドの食堂を舞台にした1本。同作品の目玉でもある北欧ヘルシンキのオールロケで、そのゆったりとした時間の流れに魅了された日本人も多く、後日談的CMも何かと話題となった。 そして、この「かもめ食堂」と同じスタッフ、同じキャスト(小林聡美、もたいまさこほか)で制作し、今回のND/NF出品作品となった新作「めがね」(日本公開07年9月/上映時間106分)。「たそがれどきを迎えるすべての人へ」というメッセージ通り、同作品では誰もが憧れる「自由」について、何が自由なのか、ふと手が届きそうな自由、一瞬のようで永遠のような「何か」に、彼女らしい優しいタッチで綴っている。 この「めがね」は、今年1月に開催された「第24回サンダンス映画祭」のコンペティション部門でも上映され好評を博し、続いて2月に開催された「第58回ベルリン国際映画祭」のパノラマ部門では「ザルツゲーバー賞」を受賞している。よって、今回のND/NFでの期待も当然高まっている。 本編は現代の日本の人々が欲して止まない「ユル~イいい感じ」が、透明感あふれる日差しと爽やかな風が心地よい南の島「与論島」で上手く表現され、観客も登場人物と一緒に、ゆるやかな時間が過ごせる「癒し系映画」である。日がな一日、思い思いの時を過ごす島の人々が、何故か全員、めがねをかけている——。この「皆が同じ画図ら=おそろい」という演出は、「バーバー吉野」の吉野刈りに始まり、「めがね」のメルシー体操、めがねと、彼女が得意とするところで、彼女自身の笑いのツボでもあるという。彼女は「みんなが同じという画が、私にとってはシュールなものなので、そんな印象がある画が好きです。適当にゆるーく、ぴっちり揃ってない感じがおもしろいかな」と語っている。「シュール=ユーモア」が今の彼女の原動力と言えそうだ。You live freely only by your readiness to die.(死ぬことを恐れなければ、自由に生きられる) という考えさせられるテーマから、そんな命題を軽々と飛び越え、意外にも、一歩進んだ「幸せな感じ」が滲み出る作品に仕上がった「めがね」。そんな理想形の同作品ではあるが、アメリカ人に「たそがれる」ということが、どう見えるのか、どう映るのか……、上映後の寸評を期待したいところだ。 ■「めがね」のオフィシャルサイト めがね商会 ■ND/NFでの「めがね」の上映スケジュール *ウォルター・リード・シアター(WRT)=3月31日(月)午後9時から *近代美術館(MoMA)=4月2日(水)午後6時15分から *尚、今回のイベントに併せたかのように、ニューヨークの主な日系レンタルビデオショップ各店に「めがね」のDVDが入荷する。映画祭の開催当日(4月2日)にも店頭に並ぶ予定だ。万一、見逃したとしてもひとまず安心。 日本人として微妙に気になるもう1本 イスラエル人が捉えた「ジパング・ジパング」とは? ■ハイテクとポップカルチャーの奇妙な国ニッポン。これに目をつけたのがイスラエルの若き監督、リオル・シャムリズ(写真左)が手掛けた「JAPAN JAPAN」(07年イスラエル映画/上映時間65分)だ。最近、話題となった黒人演歌歌手のジェロくん(ペンシルベニア州ピッツバーグ出身)ではないが、同監督曰く、今、日本の歌謡曲が新しい…?、らしい。SUSHI、MANGAに始まり、日本文化がどんどん広まる中、異国の青年たちが最も好奇な目でヨダレをたらしてチェックしまくるのは言わずと知れた「ポルノ・サイト」だ。日本が誇れる(?)誇れナイ(?)アドルト系サイトは、日本の若い女の子が、あられもない姿で挑発するとあって、テルアビブの若者の間でダントツの人気だという。異郷(日本)への幻想とも言えるべき同作品は、日本人にとって「それは誤解だ」とも思える内容らしいが、ともかくニッポンという奇妙なアジアの一国が、世界各国で勝手に一人歩きし始め、確固たるイメージを各々作りあげられていることに、変わりはないようだ。 ■リオル・シャムリズ監督のオフィシャルサイトwww.jehuti.comでは、映画「JAPAN JAPAN」の詳細や画像、予告編の動画なども公開されているので、観る前から気になる人はチェックしてみてください。 ■ND/NFでの「JAPAN JAPAN」の上映スケジュール *近代美術館(MoMA)=3月28日(金)午後8時45分から *ウォルター・リード・シアター(WRT)=3月30日(日)午後8時から ■以下「ND/NF」で上映される作品のインフォメーション *「めがね」を除く、残り25作品の内容は以下の通り。写真左から映画のタイトル、監督名、配給・制作国、公開年と上映時間、開催日時の順。 *画像をクリックすると拡大します。 1. 映画名:A Lost Man、監督名:Danielle Arbid、配給・制作国:レバノン&フランス、公開年と上映時間:2007/97分、開催日時:WRT=4月5日(土)午後6時15分、MoMA=4月6日(日)午後7時 2. 映画名:Ballast、監督名:Lance Hammer、配給・制作国:アメリカ、公開年と上映時間:2007/96分、開催日時:MoMA=3月29日(土)午後8時、WRT=3月30日(日)午後3時 3. 映画名:Correction、監督名:Thanos Anastopoulos、配給・制作国:ギリシャ、公開年と上映時間:2007/83分、開催日時:WRT=4月3日(木)午後6時15分、MoMA=4月5日(土)午後6時 4. 映画名:Eat, for This Is My Body、監督名:Michelange Quay、配給・制作国:ハイチ&フランス、公開年と上映時間:2007/105分、開催日時:MoMA=3月27日(木)午後9時、WRT=3月29日(土)午後3時30分 5. 映画名:Epitaph、監督名:Jung Bum-Sik and Jung Sik、配給・制作国:韓国、公開年と上映時間:2007/98分、開催日時:MoMA=4月5日(土)午後8時30分、WRT=4月6日(日)午後7時 6. 映画名:Falling from Earth、監督名:Chadi Zeneddine、配給・制作国:レバノン&フランス、公開年と上映時間:2007/65分、開催日時:WRT=4月1日(火)午後6時15分、MoMA=4月2日(水)午後8時45分 7. 映画名:Foster Child、監督名:Brillante Mendoza、配給・制作国:フィリピン、公開年と上映時間:2007/98分、開催日時:WRT=4月2日(水)午後6時15分、MoMA=4月3日(木)午後8時45分 8. 映画名:Frozen River、監督名:Courtney Hunt、配給・制作国:アメリカ、公開年と上映時間:2007/97分、開催日時:MoMA=3月26日(水)午後7時、WRT=3月27日(木)午後6時15分(オープニングナイト作品) 9. 映画名:Japan Japan、監督名:Lior Shamriz、配給・制作国:イスラエル、公開年と上映時間:2007/65分、開催日時:MoMA=3月28日(金)午後8時45分、WRT=3月30日(日)午後8時 10. 映画名:Jellyfish、監督名:Etgar Keret and Shira Geffen、配給・制作国:イスラエル&フランス、公開年と上映時間:2007/78分、開催日時:MoMA=3月27日(木)午後6時15分、WRT=3月30日(日)午後5時30分 11. 映画名:La France、監督名:Serge Bozon、配給・制作国:フランス、公開年と上映時間:2007/102分、開催日時:WRT=4月4日(金)午後8時45分、MoMA=4月5日(土)午後3時15分 12. 映画名:La Zona、監督名:Rodrigo Plá、配給・制作国:スペイン&メキシコ、公開年と上映時間:2007/97分、開催日時:MoMA=4月4日(金)午後9時、WRT=4月6日(日)午後2時 13. 映画名:Momma’s Man、監督名:Azazel Jacobs、配給・制作国:アメリカ、公開年と上映時間:2008/94分、開催日時:MoMA=3月28日(金)午後6時15分、WRT=3月29日(土)午後1時 14. 映画名:Moving Midway、監督名:Godfrey Cheshire、配給・制作国:アメリカ、公開年と上映時間:2007/98分、開催日時:WRT=3月29日(土)午後8時30分、MoMA=3月30日(日)午後4時45分 15. 映画名:Munyurangabo、監督名:Lee Isaac Chung、配給・制作国:アメリカ&ルワンダ、公開年と上映時間:2007/97分、開催日時:WRT=3月27日(木)午後9時、MoMA=3月29日(土)午後2時30分 16. 映画名:Sleep Dealer、監督名:Jackie Reem Salloum、配給・制作国:アメリカ、公開年と上映時間:2008/89分、開催日時:WRT=4月5日(土)午後9時、MoMA=4月6日(日)午後4時30分 17. 映画名:Slingshot Hip Hop、監督名:Alex Rivera、配給・制作国:アメリカ&メキシコ、公開年と上映時間:2008/90分、開催日時:WRT=3月28日(金)午後9時、MoMA=3月29日(土)午後5時30分 18. 映画名:Soul Carriage、監督名:Conrad Clark、配給・制作国:中国&イギリス、公開年と上映時間:2007/88分、開催日時:WRT=4月3日(木)午後8時45分、MoMA=4月5日(土)午後1時 19. 映画名:The Toe Tactic、監督名:Emily Hubley、配給・制作国:アメリカ、公開年と上映時間:2008/85分、開催日時:WRT=3月29日(土)午後6時、MoMA=3月31日(月)午後9時 20. 映画名:Trouble the Water、監督名:Tia Lessin and Carl Deal、配給・制作国:アメリカ、公開年と上映時間:2007/90分、開催日時:MoMA=4月3日(木)午後6時15分、WRT=4月6日(日)午後4時30分 21. 映画名:Valse Sentimentale、監督名:Constantina Voulgaris、配給・制作国:ギリシャ、公開年と上映時間:2007/109分、開催日時:MoMA=3月31日(月)午後6時15分、WRT=4月1日(火)午後8時45分 22. 映画名:Water Lilies、監督名:Céline Sciamma、配給・制作国:フランス、公開年と上映時間:2007/85分、開催日時:WRT=3月28日(金)午後6時15分、MoMA=3月30日(日)午後2時 23. 映画名:We Went to Wonderland、監督名:Xiaolu Guo 郭小櫓、配給・制作国:中国&イギリス、公開年と上映時間:2008/76分、開催日時:MoMA=3月30日(日)午後7時30分、WRT=3月31日(月)午後6時15分 24. 映画名:Wonderful Town、監督名:Aditya Assarat、配給・制作国:タイ、公開年と上映時間:2007/92分、開催日時:WRT=4月2日(水)午後9時、MoMA=4月4日(金)午後6時15分 25. 映画名:XXY、監督名:Lucía Puenzo、配給・制作国:アルゼンチン&スペイン&フランス、公開年と上映時間:2007/90分、開催日時:WRT=4月4日(金)午後6時15分、MoMA=4月6日(日)午後2時 ■「ND/NF」の料金と場所 *料金は両シアターとも、大人一般は12ドル、FSLC & MoMAメンバーは10ドル、65歳以上と学生は10ドル(ID要)。チケットはND/NFのオフィシャルサイト( New Directors/ New Films)のプログラム・オーバービューで、各映画ともオンライン購入可能。チケットに関する問い合わせは、電話(212-875-5601=WRT、212-408-6663=MoMA)またはemail(ticketing@filmlinc.com)で。 *上映される場所は以下の市内2か所 「The Film Society of Lincoln Center's Walter Reade Theater=WRT」ウォルター・リード・シアター 165 W. 65th St.(bet. Broadway & Amsterdam) 「The Museum of Modern Art's The Roy and Niuta Titus Theater 1=MoMA」近代美術館 11 W. 53rd St.(bet. Fifth & Sixth Aves.) 2008年3月28日号(vol.163)掲載 Copyright © 2000-2008 S.Graphics all rights reserved.
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| 2008-03-27 14:54
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