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vol.167/死ぬまでに……。<黒須田 流>

 先日、久しぶりにOTB(場外馬券場)に行った。私の住処から歩いてわずか1分の場所にOTBはあるのだけれど、そこに足を踏み入れることは滅多にない。競馬に興味がないとかギャンブルが嫌いだから、という理由ではなく、「競馬では勝てない」ということを悟ったからである。まあ、そのことに気がつくまで、かなりの時間とカネを費やしのだが……。
 その私が、なぜ馬券を買いに行ったというと、30年ぶりにトリプルクラウン・ホースが誕生するかもしれなかったからである。米国の競馬史において、トリプルクラウン・ホース、いわゆる三冠を達成したのはセクレタリアート、シアトルスルー等、過去に11頭いるが、1978年のアファームド以降出ていない。
 ちなみに、「三冠」とは、ケンタッキーダービー、プリークネスステークス、ベルモントステークスの三大クラシックレースに勝つことで、これらのレースには一生に一度(三歳馬)しか出られない。
 私がニューヨークに来てから、シルバーチャーム(1997)、リアルクワイエット(1998)、スマーティージョーンズ(2004)等、8頭の馬が二冠を取り、三冠に王手をかけた。そのなかには、いま日本で最高の種馬と言われているサンデーサイレス(1989)もいた。また、それ以前に3頭いたらしい。つまり、アファームド以降、11頭の馬が三冠に挑み、すべて失敗に終わっている。そして、今回、ビッグブラウンが12頭目の挑戦馬となったのである。
 ビッグブラウンは12頭の三冠挑戦馬の中でも最も期待された馬の一頭だろう。なぜなら、17番より外枠では勝てない(外枠は不利)といわれているケンタッキーダービーで20番のゼッケンを付けて勝ち、続くプリークネスステークスでも、持ったままの馬なり(ムチを入れない)で2着に5馬身1/4と圧倒的強さを見せつけた。そして、最後の関門ベルモントステークスでは、コレといった強力馬もなく、唯一ライバルと目されていた日本からの馬カジノドライブ(藤沢厩舎)もレース当日、脚の故障で出走を取り消した。まさに死角ナシ、といった感じで臨んだのだが……。
 近年、三冠馬の道のりのはますます困難になっている。それは、ダービーからプリークスまで中一週、プリークネスからベルモントまで中二週と、わずか5週の間に3レースを走らなけれならないという過酷なローテーションが挙げられる。次に昔に比べ、馬やジョッキー、調教師のレベルが拮抗したこと。加えて、世界中のサラブレッドの実力が等しくなっていること。また、三冠と言わず、これら3レースのうち、どれか一つでもタイトルを取れば、引退後は高額な種付け料の種牡馬として稼げるので、各レースに絞ってエントリーする馬主もいるからである。
 今回ビッグブラウンが三冠馬のタイトルを逃したことで、私が生きている間にトリプルクラウン・ホースは現れるのだろうか?と、考えてしまった。この先、私が何年生きられるかは神のみぞ知るわけだが、まあ、後30年ぐらいは何とか呼ばれないことを祈る。
 トリプルクラウン・ホース、ニューヨーク・ニックスの優勝、ジョー・デマジオの記録を抜く57試合連続ヒットと4割バッターの出現、日本人ゴルファーのメジャータイトル、そして、サッカーW杯で日本代表の優勝……。
 私が見たいと願っている夢のうち、いくつ実現するのだろう。残されている時間はそれほどない。
 それにしても、スポーツ、勝負事に絶対はない——そのことを学ぶために、私は一体いくらの授業料を払えば気が済むのだろうか。
(原文まま)
*掲載号では、誤字、脱字は校正し、編集したものを発行*
*お知らせ* 同コラムのバックナンバーは「アンダードッグの徒」のオフィシャルサイトの書庫に第1回目から保管してあります。お時間のある方は、そちらへもお立ち寄りください*連載小説「最悪」は筆者の勝手な都合で、暫くの間、休載しています。
2008年6月27日号(vol.169)掲載
by tocotoco_ny | 2008-06-26 12:12 | アンダードッグの徒
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