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vol.50/THE untitled<腕前建設>

■嗚呼!デザイナーズマンション
 躍起になること無しに、何とな〜くだが、日本での賃貸物件を探している。生まれてこの方、都会のコンクリートの中でしか生きて来ていないし、親類縁者すら誰一人、地方に暮らす知人を持たないため、漠然と自然に囲まれた田舎での緩やかな生活に憧れを抱いている。vol.50/THE untitled<腕前建設>_f0055491_3301273.jpg
 ニューヨークでは北海道から沖縄まで、結構、地方出身者と出会ったが、その人を頼りに、周辺の物件を探すほど仲が良いワケではない。しかしまあ、近い老後、ひとり一人を訪ねて、日本国中、津々浦々行脚できるのもまた、長年この地に暮らしたからこその「ご褒美」かも知れない。
 それにしても「一度、田舎で暮らしてみたい」という気は薄れない。歳の所為だろうか——。もう現役でバリバリ働くことも、多分ナイであろうと見込んだからか——。ここ数年ブームの「沖縄移住組」にノルのも気乗りせず、かと言って縁もゆかりもない地方都市に独り移り住んで、自然と暮らす「奇をてらったアーティスト」では毛頭ない。特に田舎に籠って何かを創る作家風でもナイし、町おこしのお手伝いをする善良な市民になるには、相当遠い感じだ。何より、根っから都会育ちの弱点は、蝶やトンボにも慣れておらず、わずか3mmのテントウ虫にさえビビらされる極端な「虫嫌い」にある。数年前には、ロス辺りにでも住み着いて「トピアリー」(樹枝を動物・星・円錐などの形態に刈り込む人)の修行でも積んでみようかと、不埒な考えがよぎったこともあったが、如何せん「虫が怖くて仕事になるかいな!」と友人から指摘され、即、断念した苦笑いの経験もある。余談ではあるが、生まれて初めてこの目でホタルが飛んでいるのを見たのは、アッパーウエストサイド87丁目に住んでいた友人の古ぼけたアパートのベランダからである。ただ漠然と憧れているだけで、何の目的や目標も持たない輩には、田舎に移り住む権利すら与えられていなさそうな空気である。
 徒歩1、2分で主要地下鉄の駅に辿り着き、傘入らず。駅前には年中無休で24時間営業のコンビニがあり、ちょっと足を延ばせば児童公園くらいはある。週末、ちょいと車で飛び出せば、狭い日本、都心から小1時間も走ると、当然海か山にぶつかる。街は旨いモンで溢れかえり、通勤ラッシュや携帯生活にこそ慣れていないものの、ごった返した都会が、老いつつあるカラダに最も適した適所になっているのだろう。
 やっぱり都会しかないか——。vol.50/THE untitled<腕前建設>_f0055491_331885.jpg
「個性ある住空間をご提供いたします!」日本を出た15年前には多分なかったハズである。サイト上で、デザイナーズマンションという「ハコ」にイチイチ目が停まる。なるほど、壁はコンクリート打ちっぱなしで床はフローリング仕上げ。ロフトと謳った中2階の低い空間へは、数段の梯子が備え付けられてある。何かのドラマで見たような、都会での1人暮らしの王道をゆく洒落た空間は、きっと若い人たちにウケがいいのだろう。狭い空間をいかに広くみせ、合理的かつクールに使うか。アーキテクチャーの腕の見せ所である。しかし、得てして格好ばかりに気を取られ、快適にはほど遠い設計になっているモノも多々ある。その1つがバスルームである。
 時代は変わった——。お風呂場と呼ばれていた従来の浴室が、何故か全面ガラス張りになっていて、トイレの便器、洗面所、浴槽が1つに集められ、リビングから丸見え状態の物件が台頭している(写真参照)。その浴槽も「足付きのバスタブ」がデ〜ンと置かれてあって洗い場は無く、バスタブの中でシャワーする洋式タイプだ。よってシャワーカーテンの導入である。日本式の、ちょいと跨いで深く浸かる「埋め込みタイプ」の浴槽と洗い場がついた浴室は、施工も大変だろうし工費もかかるだろう。コストも抑えられ、尚且つカッコイイという観点から「丸見え」でもヨシとされるバスルームに物言いを付けたい。その昔、タイル張りの浴室掃除(カビ取り)の苦労から解放されると主婦が泣いて喜んだ「一体ユニット型」バスルーム。経済成長とともに団地からマンションへと時代は変わり、蛇口を捻ればお湯が出て、更に追い炊き機能も付いた淡いカラーのユニットバスに誰もが格好イイと感じたのは25〜30年前である。それが…、である。壁やドアはガラス張りで、床もコンクリートあるいはタイル張り、そこにむき出しのパイプ類にシャワーカーテンという「掃除泣かせの浴室」に逆戻りしている。結局、ガラス張りのドアには目隠しのパテーションなるものを取り付けるだろうし、陶器にはヒビ割れが生じるかも知れない。パイプ類もサビるだろうし、ゲストが来る度、浴室掃除にホトホト神経を使うことになるだろう。何が哀しくて、またシャワーカーテン……。
 ダサイと言われてもいい。帰国したらやっぱり「日本のお風呂」に浸かりたい——。
2008年7月25日号(vol.171)掲載
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by tocotoco_ny | 2008-07-25 03:31 | THE untitled
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