vol.172/表紙「POLAROIDS:MAPPLETHORPE」

Robert Mapplethorpe REMEMBERD
芸術作品か、わいせつ図画か-------日本での最高裁の判決
■芸術作品とみるか、わいせつ図画と捉えるか——。男性器の写真が無修正で掲載されているロバート・メイプルソープの写真集「MAPPLETHORPE」が、日本での輸入禁制品(わいせつ書籍)に該当するかが争われていた、いわゆる「メイプルソープ事件」の最高裁判決が、約10年という長い年月を経て、今年2月、遂に下った(事件の詳細は tocoloco参照)。f0055491_23541437.jpg
 今やインターネットで、いくらでも無修正画像が手に入るこの時代に、延々と、わいせつか否かを繰り広げていたことにも驚くが、逆に「わいせつ図画」とは一体、何なのか? 今の時代、どういうモノを指して「わいせつ」と判断するのかが、益々不透明になってきた感がある。
 モチーフが同じ裸体であっても、世紀を越えて芸術性が高いと称されるモノもあれば、全く認められない(認めてもらえない)モノも多々ある。
 作品とは、作家の意志とは関係なく、常に観る人側からの判断に委ねられ、独り歩きするモノである。
 写真や図画に関わらず、映画などの作品も含めてそう言えるが、奇をてらった(風変わりなことをして人の関心を引く)モノへの評価は、極端に高いかその逆か、どちらかである。さて今回は、このわいせつ論争にまで至った人物、ロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)について紐解いてみたい。

セックス&ドラッグ、そしてエイズ-------70年代、NYに生きたアーティスト像
■ティーンの頃はミュージシャンに憧れ、やがて写真に興味を持ち始めてアーティストとなり、セックスにSMプレイ、ドラッグ、ゲイ、エイズ、死……という「70年代の図式」にぴったりハマる芸術家の1人、ロバート・メイプルソープ(自身によるポートレイト=写真上)。
 当時、ここニューヨークで生きたアーティストの典型といえるだろう。f0055491_2191755.jpg
 彼は1946年11月4日、ロングアイランドのフローラル・パークで生まれた。16歳で家を飛び出し、その翌年、ブルックリンにあるアート系カレッジ「Pratt Institute」(200 Willoughby Ave. Brooklyn/www.pratt.edu=同右)に入学し、グラフィックや絵画、彫刻などを専攻している。
 そして、この頃に知り合ったのが、シカゴ出身の女性パンクアーティストで詩人のパティ・スミス(Patti Smith=同左上)だ。
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 彼らの関係が友人であったのか恋人だったのかについては、未だ賛否あるが、70年代前半、確かに彼らは、イーストビレッジにあった彼の最初のスタジオ(24 Bond St./現:The Gene Frankel Theatre)や、チェルシー・ホテル(Chelsea Hotel=同右)で同棲を始めている。
 芸術家やミュージシャンの溜り場と化していた同ホテルでは、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol=同左下)を始めとする「ゲイカルチャーへの美意識」が高まる中、性の解放とゲイの権利を得るという時代背景にのって、様々なポップカルチャーや音楽が生み出されている。f0055491_2215075.jpg
 ロバートは元々、フォトグラファーを目指していた訳ではなく、ポルノ雑誌などから男性の部分イメージを切り抜いてコラージュするという作風で、その過程上に「ポラロイドカメラ」という頼もしい武器を見出し、のめり込んでいったといえる。
 25歳で彼は初めて「ポラロイドカメラ」(Polaroid SX-70)という武器を手にするが、このカメラを贈ったのは、彼の最初のボーイフレンドと言われている写真家でモデルのデヴィッド・コロランド(David Croland/davidcroland.net=同右上)である。
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 約3年間、ボーイフレンドとして付き合っていたというデヴィッド曰く、ロバートはコカイン中毒の超サディストで「自分が彼のSMプレイについてゆくのに充分なマゾヒズムではなかった」と、後に別れた理由を語っている。また、最後までロバートをサポートし続けたパトロンで真の恋人といわれる、美術品コレクターのサム・ワグスタッフ(Sam Wagstaff=同右下)を彼に紹介したのもデヴィッドである。
 この頃、ロバートは19〜20世紀全般のヴィンテージプリント収集をコレクターのサムと始め、73年、老舗「The Gotham Book Mart & Gallery」(2007年5月閉店)で開かれたグループ展で初めてポラロイド作品を出展。同年、アップタウンの「Light Gallery」で、初のポラロイド作品による個展を開いている(今回の172号表紙で使用した作品は、同ギャラリーの個展でのオープニングの招待状に使用されたモノ)。
 それから約3年後、彼が得意とする男性のヌードやSMプレイの写真以外の、もう1つのテーマである「花」を加えた個展が「Holly Solomon Gallery」(172 Mercer St.)で開かれている。
 当時、彼はサムに「ハッセルブラッドカメラ」(Hasselblad 2 1/4-inch)を与えられ、アンディ・ウォーホルの雑誌「インタビュー」(Interview)のフォトグラファーとしても活躍。また1980年代に入ってからは、彼が撮るポートレイトの評判がドンドンと高まり、俳優のリチャード・ギア(Richard Gere)など各界の有名、著名人のポートレイトを次々と手掛けている。
 この頃、彼のスタジオ兼住居は、チェルシー(35 W. 23rd St.)に移っており、イーストビレッジのスタジオは暗室として残し、3400スクエアフィートからなるチェルシーの物件でサムと生活していたという。当然、同物件は、サムが彼のために当時50万ドルを出資してトップフロアに設けたもので、調べてみると2008年現在、同物件(同左)は大手不動産会社「コーコラン」(www.corcoran.com)などが扱い、350万ドルで売りに出されている。f0055491_2321239.jpg
 イブ・サンローランなどの雑誌広告写真も受けるようになり、彼は商業写真でカラー作品も数多く扱うようになる。しかし、彼の焦点は、作品がカラーかモノクロか、ではなく、もっと違った手法による表現法を模索していたようだ。麻や絹にプラチナプリントを施したり、作品を飾るフレーム自体にこだわったりと、初期におけるコラージュ作品の面白さに固執していた感は充分見て取れる。

新たなる作家たちへのメッセージ-------ホイットニー美術館で回顧展
■86年、彼は40歳でエイズを告知される。初の個展からわずか16年、いよいよこれからという最盛期だ。
 そして翌87年、生涯、彼が最も愛したとされるサムを亡くしている。サムの告別式で彼は友人に「次はボクなんだ」と漏らしている。
 告知から死を迎えるまでの3年間に恋人を失い、エイズ差別が強かった当時、病魔と戦う彼は、日々どんな思いで暮らしていたかについては誰からも語られていない。
 しかし、死を迎える前年の88年、ホイットニー美術館(Whitney Museum of American Art)で行われた彼の回顧展を観に来た彼自身(同右)を見て、また、展示されている彼のモノクロのポートレイト作品群のすぐ横で、白黒の明暗をハッキリ付けるかのごとく、対照的に小さくなって車椅子に座っている彼の形相を見て、そのショックからなかなか立ち直れなかったと語る友人は多い。f0055491_734280.jpg
 もし彼が生存していたなら今年62歳である。
 彼が亡くなって約20年もの月日が流れ、ゲイの人たちに対する偏見も薄れ、徐々に人権も認め守られるようになって来た。
 21世紀に入り、時代は益々変わったといえる。写真はデジタル化されコンピューターを駆使したCG作品やコラージュ作品が世に溢れかえっている。
 メイプルソープを知らない、もはや芸術に異なった観点を持つIT世代と呼ばれる新人類が現代アート界を牛耳る中、新たなる作家たちへのメッセージとして、彼の回顧展「POLAROIDS:MAPPLETHORPE」が、再びホイットニー美術館で開かれている(同展の詳細はtocoloco参照)。

*「アンディ・ウォーホル」のポートレイトは「Robert Mapplethorpe Foundation」(メイプルソープ財団/www.mapplethorpe.org)所蔵、「サム・ワグスタッフとロバート」2人一緒のポートレイトはスタッテン島生まれの写真家、フランチェスコ・スキャバロ(Francesco Scavullo=04年1月没)が74年に撮影したもので「Francesco Scavullo Foundation」(フランチェスコ・スキャバロ財団)が所蔵、それ以外のポートレイトはメイプルソープ財団協力による今回のホイットニー美術館(Whitney Museum of American Art/www.whitney.org)からの提供

2008年8月15日号(vol.172)掲載
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by tocotoco_ny | 2008-08-12 02:21 | 2008年8月号
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