vol.176/表紙「NEW MUSEUM」

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■New Museum of Contemporary Art
 アート、アートと持てはやされた潮流も、やや勢いを失った感があるニューヨーク。ソーホー地区からチェルシー地区に移って早10数年が経ち、今では「ブロンクス辺りが最も熱い」と囁かれては……いる。
 そんな停滞感が漂う中「いやいや、やっぱりダウンタウンから離れられない」とダウンタウンに固執して制作を続けている作家たちが、バワリーストリート周辺に多く暮らしているという——。
 雑誌「The Bowery Artist Tribute」(写真左=3ドル)を発行して、これらの作家たちを支えているのが、昨年12月1日にオープンした通称「NEW MUSEUM」こと「New Museum of Contemporary Art」である。今回はこの「ニュー・ミュージアム/新しい美術館」について触れてみたい。

■日々、様変わりするバワリーストリート周辺
 ヒップな人々が行き来するソーホー地区、そのすぐ東側に隣接して広がっているのが「バワリーストリート」である。言うなればここは「道具屋筋」で、台所関連の商品なら何でも揃う通りである。
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 大抵は業務用の大型調理器具類であるが、素人でも心よく売ってくれる店も多々在る。通り添いの歩道には今でも大型ショウケースや流し台、コンロ、冷蔵庫などが鈴なり状態で山積みされており、そのほとんどが新品では無く中古品であることからも、ニューヨークのレストラン業界の厳しさが見てとれる。
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 また、通りの南側は照明器具など「灯り」を扱う専門店が立ち並び、これらに共通しているのは、商店のメインの看板が、全て中国語であることだろう。
 チャイナタウンに隣接している同エリアは、全て華僑が仕切っている。「オープンしては潰れる」その繰り返しが際限なく続くニューヨークでは、これらの商いに不況はナイ。
 さて、そんな中国色が強いバワリーストリートに、2、3年前から異変が起こっている。まずはイースト・ハウストンストリート添いにオープンした「ホールフーズ」(Whole Foods Market)バワリー店(同右/上地図参照)の出現だろう。
 目と鼻の先に、やれ「メタミドボス」「メラニン」「ジクロルボス」と、農薬&殺虫剤疑惑の根源である「チャイナタウン」を控えながら、その対極の「自然&オーガニック」を全面的に圧し出したホールフーズ。
 この二極分化が、稀にうまく共存しているのが、ここバワリーストリートである。

■意外と知られていない日本人建築家ユニットが手掛けた美術館
「ニュー・ミュージアム」。その名の通り現代(近代)美術を専門としているミュージアムである。
 同館は1977年、ホイットニー美術館の絵画と彫刻のキュレーター、マーシャ・タッカー(Marcia Tucker)によって創設され、トライベッカにあるファインアーツビル(New York's Fine Arts Building/105 Hudson St)で開館された。
 同館のコンセプトは「新しいアート、新しいアイディア」で、比較的無名の作家作品や、実験的かつ革新的な作品の展示を行っている。
 1980年代にキース・へリングやリチャード・ビル・ジェンセン・プリンス、ジェフ・クーンズやエードリアン・パイパーを相次いで世に送り出したことも有名であるが、10代の青少年のための教育プログラム「高校アートプログラム」(HSAP)「可視的知識プログラム」(VKP)などをいち早く手掛けたことでも知られている。移転後の現在も同様の数々の教育プログラムは続けられ、キース・ヘリング財団やロックフェラー財団、ブルームバーグなどがスポンサーとして名を連ねている。
 この金融、ビジネスの情報プロバイダ「Bloomberg」の創設者は、言わずと知れた市長のマイケル・ブルームバーグ氏だが、市長は再選を果たした2005年、この新しいニュー・ミュージアムに多額の寄付を行っている。
f0055491_925012.jpg 2002年12月、6万平方フィートからなる壮大な元駐車場跡地で着工したニュー・ミュージアムは、創設者のマーシャ・タッカー(享年66歳)の死を開館を待たずして2006年に迎えている。そして、この完成したニュー・ミュージアムが、日本人建築家の「妹島和世&西沢立衛」(SANAA=Sejima And Nishizawa And Associates)のユニットが、コンペに勝ち残って手掛けた建築物ということは、意外と知られていない。
f0055491_7594633.jpg 総工費は5000万ドル(50ミリオン)。外観上、チグハグに6個の白いブロックを淡々と積み上げた感じのシンプルな同建築物は、正面から見て、全てが中心軸からズレて設置されているように見えるよう設計されている(同左)。
 そして、正面の虹色のロゴ「HELL, YES!」(同右)は、スイス人作家のウーゴ・ランディノーン(Ugo Rondinone)の作品だ。彼は楽観主義の哲学者と言われ、日常生活の最も平凡な要素で見つけられた感情的かつ精神の深さを探るアーティストである。社会的な概念を壊す意味を含めて、このデザイン性やカラー感などはさておき、HELL, YES!というインパクトのあるコピーはイイ感じである。
f0055491_9273099.jpg さて、館内だが、中も6ブロック(7階)で構成され、ビルは小ぶりながらもギャラリースペースは広く、見応えあるように工夫されている。また建物全体はメッシュ状のアルミニウムで覆われており、一見、薄暗く閉塞感を憶えるが、保護的な鎧兜(よろいかぶと)は装飾用のスクリーンとして充分機能している(同左)。

 まず1階は「ミュージアムストア」とカフェ「NEW FOODS」、子供用の遊び空間「プレイスペース」がある。この「NEW FOODS」はカッティンク・エッジなイベント会社「Creative Edge Parties」がプロデュースする斬新な若手シェフたちによるメニューがウリである。1階の同カフェでは3種類ある12ドルのプレートランチが好評だ。f0055491_929023.jpg
 2〜4階は「ギャラリー」空間で、微かな自然光を取り入れ、作品にやさしい演出だ。また必見はエレベーター裏側にある細長くて狭い階段(長さ50フィート、幅4フィート)で、途中の踊り場には、夜になると同館北側に位置する隣のブラウンストーン・ビルの白い壁面に向けて映すビデオ・インスタレーションが施されており、なかなかイイ演出ぶりである。
 現在、同フロアではエリザベス・ペイトン(Elizabeth Peyton)のライブ・フォーエバー(同右)が来年1月11日まで展示されている。
 5階は「教育センター」で、数台のMacが備え付けられ自由に地元アーティストなどの検索が可能だ(同左:上)。また同フロアでは「ハブ(HUB)としての機能を持つ美術館」を提供し「Six Degrees」と謳ったイベントが催され、月変わりで多彩なセミナーが行われている(同下)。f0055491_823269.jpg
 そして7階は、土日のみ開放されているフロアで、同建築物自慢の「スカイルーム」(同右:上)がある。床から天井までガラスパネルが張り巡らされ、光が燦々と室内へ入り込む癒される空間だ。2つの大きな扉はロウアー・マンハッタンとイースト・リバーを見下ろすテラス(同中央)へと開き、眼下に広がるチャイナタウンの景色さえも、ここから観ると何だかオシャレな感じだ。
 ここから望む夜景は赤や黄、青色に輝く強い電飾がアジアン的でもあるが、一方、目を移せば摩天楼のビル群が放つライトと相まって、見事な「これぞ!マンハッタンの夜」を形成していることにも驚く。
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 このスカイルームは、200人収容(ディナーの場合は最大で120人分のテーブルセッティング)可能なイベント用レンタルスペースとして、1階のカフェ「NEW FOODS」と同様、Creative Edge Partiesが管理して貸し出している(同下)。f0055491_84881.jpg
 最後の地階は「シアター」(同左:上)とジェフリー・イナバ(Jeffrey Inaba)の作品である「ドネーション・マップ」(同下)が描かれている。ここのシアターは7階のスカイルームと同じくレンタルスペースとして開放されており、コンサート、ライブのほか講演会、映画の上映などに活用されている。

■40歳から65歳のアーティスト限定「The Ordway Prize」
 また同ミュージアムの特記すべき点は「The Ordway Prize」という2年に1度開催される賞で、優勝した作家(グループ)には賞金10万ドルが与えられる。この手合いは数々あるが、違いは応募者の年齢にある。受賞者資格は、15年以上作家生活を続けている「40歳から65歳のアーティスト」に限られ、その審査には代々の優勝者があたっている。同賞は自然主義者で芸術家を支援するキャサリン・オードウエイ(Katherine Ordway)の名前から付けられ、同ミュージアムと「Creative Link for the Arts」との共催で行われている。既に本年度(2008)の優勝者は、学芸員で作家のジェームス・エレイン(James Elaine)に贈られ、次回は2年後の2010年に発表される。

■オススメの「ミュージアム・グッズ」
 少々高めながら、数々のオリジナルグッズが揃うほか、他館では見られないインディペンデンス系のアート書も多いミュージアム・ストア。また、日本では株式会社インターオフィス(www.hhstyle.com)でしか手に入らないSANAA(妹島和世&西沢立衛)のプロダクツデザイン関連も数多く、興味のある人は要チェック。以下に紹介する商品はウエブサイトからでも購入可能(アドレスはインフォメーション参照)。商品左から順に、New Museum Yellow Tote(トートバッグ)25ドル、New Museum Market Bag(ショッピングバッグ)32ドル、New Museum Cap(キャップ)18ドル。
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■特集「NEW MUSEUM」のインフォメーション
◎New Museum of Contemporary Art
アドレス:235 Bowery, New York, NY 10002
Phone : 212-219-1222
オフィシャルサイト:www.newmuseum.org
開館時間:12:00〜18:00(水、土、日曜)/12:00〜22:00(木、金曜)/ 閉館:月、火曜
入館料:大人12ドル、高齢者:10ドル、学生:8ドル、18歳以下およびメンバー:無料
◎New Museum Store(ミュージアム・グッズ)のサイト:www.newmuseumstore.org
◎Creative Edge Parties(カフェ「NEW FOODS」を手掛けるイベント会社)のサイト:www.creativeedgeparties.com
◎The Bowery Artist Tribute(バワリー周辺に居住する作家の紹介)のサイト:mediaspace.newmuseum.org
◎Whole Foods Market(ホール・フーズ、バワリー店)のサイト:www.wholefoodsmarket.com

2008年10月17日号(vol.176)掲載
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by tocotoco_ny | 2008-10-18 07:55 | 2008年10月号
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