vol.167/今日までそして明日から<友野コージ>

 このタイトルは、僕の大好きな吉田拓郎の歌のタイトルから取ったものである。1975年に若かりし拓郎が、かぐや姫とともに静岡県のつま恋というところで伝説のオールナイトライブを行った。そして、それから31年後の2006年、同じつま恋で60歳を超えた拓郎が再びつま恋のステージに立ち、最後に歌った曲がこの「今日までそして明日から」という曲であった。
 今年の春、「結婚しようよ」という映画が公開された。その映画は、三宅裕司が扮する平凡なサラリーマンが、駅前で若者が拓郎を演奏している音が耳に入り足を止め、一緒になって叫ぶように拓郎の曲を歌うというオープニングからはじまる。家族を持ち、平々凡々と暮らしながらも、まだ心のなかに夢や希望といったものはなくしていないといったメッセージが込められた作品である。そして、そのエンディングでも「今日までそして明日から」が流れた。
 アニメの傑作である「クレヨンしんちゃん」のなかでも、「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ大人帝国の逆襲」という最高傑作の映画がある。大人達が子育てや仕事を放棄して、大阪万博の頃、つまり70年代に帰りたいというノスタルジーを抱き、自分たちが子供の頃の遊びに熱中してしまうという作品である。しかし、しんちゃんの父親であるひろしはクライマックスシーンで70年代への回帰願望を振り払い、「俺は今を生きているんだ。過去に何か戻りたくねえ」と宣言する。何度見ても涙が出る傑作であるが、その映画のラストシーンで流れるのが「今日までそして明日から」である。

 現在日本では、空前の不況を迎えつつあると言われ、契約社員はどんどんと契約を打ち切られ、来年の入社が内定していた新卒者の内定が取り消されている。株価は低迷し、大手企業は前年度の利益を大幅に下回り、中小零細企業の倒産が相次いでいる。国民の政治に対する要望は「景気対策」が圧倒的一番で、しかし麻生内閣は素早い対応が出来ずに右往左往している。
 僕は思う。慌てるほどのことではない、と。今が異常事態だと思っているからいけない。今が普通だと思えば良いのだ、と。GDPにせよ、企業の利益の数字にしろ、すべて前年度比とか前期比という比較のしかたをするから、大幅マイナスだと大騒ぎになる。国民も数年前と比較して生活が苦しいと実感して、社会への不満を募らせる。ところが国家全体にせよ、国民ひとりひとりにせよ、30年前や40年前に比べれば生活水準は明らかに豊かになっていることは、アルツハイマーの人にだって一目瞭然のことである。携帯電話はおろか、テレビでさえ珍しかった時代である。コンビニだってない。水を買うということもない。学生のアパートには風呂どころかトイレもなく、共同で使っていたりしていたのだ。
 そう考えれば、現在の日本の状況など、屁の突っ張りにもならないくらい、大したものではないのだ。マスコミは国民へのインタビューや世論調査を金科玉条にして政治批判を繰り返しているが、政治批判の延長に「アナキズム」を主張するなら納得もできるが、結局景気対策をもっと迅速に、そして効果的にやれと、つまるところ行政頼みである。
 なにも騒ぐことはない。意気揚々と、ここからまた歩き出せばいいのだ。悠然として明日から生きていけばいいのだ。それが、飢えもない日本という恵まれた国に生まれた国民の礼節ではないか。

 本号をもってtocotocoは廃刊とお聞きしました。8年という間、随分好きなことを書かせていただきました。他の雑誌などで原稿を書くときには、出版社から具体的な内容の要望があったりするので、なかなか書きたいことをそのまま書かせてくれる場というものがありません。そんななか、 tocotocoではエロネタをはじめ、特定の人物への誹謗中傷や女性蔑視も含め、書きたいことを書かせていただいきました。この間僕がどんなことに興味を抱き、どんな考え方をしていたのか、それを振り返って自己確認ができる貴重な場でありました。この場を借りまして、読者の方と関係者の方にお礼を申し上げます。拙文甚だしいものを、8年間も読んでいただいたり掲載していただきまして、ありがとうございました。
 tocotocoが廃刊になってしまうのは寂しいですが、またここから歩き出せばいいのだと思います。どこかで再会することを楽しみに……。
 そして今私は思っています
 明日からもこうして生きていくのだろうと
(原文まま)
*掲載号では、誤字、脱字は校正し、編集したものを発行*
*友野康治オフィシャルサイト「LOVE MYSELF」へもお立ち寄り下さい。
2008年12月26日号(vol.180)掲載
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by tocotoco_ny | 2008-12-26 21:54 | ニッポンからの手紙
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