カテゴリ:2008年9月号( 2 )

vol.175/表紙「Everybody Hates Chris」

Everybody Hates Chris
■今秋の新作ドラマ!通称「ビバヒル」続編もやや好調?
 秋の新作ドラマが各局で繰り広げられているが、どれもこれも、イマイチ数字の伸びはよくないらしい……。というのも、昨年、100日間にも及んだ「脚本家組合」のストライキが、ここへ来て影響しているという。通年なら、毎年5月に「広告枠宣伝イベント」などを披露して、6月末までには新番組のパイロット版が収録された視聴用DVDを、各批評家たちに配布されるというのだが、今年に限っては、例年通りパイロット版が用意できたのはCBSの1局のみで、8月末に於いても、他のネットワーク局はDVDを配布できず、各メディアのライターに「秋の新番組」を特集記事として取り上げて貰えなかった……というのが実情らしい。
f0055491_628910.jpgLabor Day(9月1日)前までには秋のテレビ特集を組まなくてはいけないメディアにとって、今秋はオザナリのプレスリリースからの情報しか得られず、独自で考えたイチオシ番組などは皆無だったという。さて、そんな中でも、やや好調な滑り出しで始まったのが「90210」(The CW局=写真左)だ。マイナー局ながら、新シリーズの第1回目は全米490万人がチャンネルを合わせたと言われている。同番組は90年代のヒットTVシリーズで、日本では通称「ビバヒル」と呼ばれている「ビバリーヒルズ90210(ビバリーヒルズ青春白書)」のスピンオフ(続編)、現代版リメイクである。未だに日本では「ビバヒル」ファンが多いと言われるが、新シリーズの「90210」は、残念ながら90年代ほどアメリカでは話題になってはいない。言わば「二番煎じ」といったところだが、哀しいカナ多分、この続編も日本では大人気を呼ぶのだろう。
 さて、このアメリカでマイナー局ながらも数々のヒット作を飛ばしているCW局(CWTV)。同局の主な番組には「AMERICAN NEXT TOP MODEL」を始め「90210」「GOSSIP GIRL」「SMALLVILLE」と大体の合格ラインをキープしている。今号では、同局の中でも今秋4シリーズ目に突入した人気コメディードラマ「エブリバディ・ヘイト・クリス」(Everybody Hates Chris=同下)を是非紹介したい。
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■世界22か国と地域で放送されている人気ドラマの決定版!
 スタンダップ・コメディアンとしてのキャリアを積み、エディー・マフィー(Eddie Murphy)に見出されて90年からNBC局の超人気バラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ」(Saturday Night Live)のレギュラーを3年間務めたクリス・ロック(Chris Rock/本名:Christopher Julius Rock III=43=同右)、その人そのものが「Everybody Hates Chris」の主人公、クリスである。
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 クリス・ロックの自叙伝的ドラマ内容もさることながら、80年代のニューヨーク・ブルックリンにおける黒人たちの生活状況がとてもよく分かる番組構成が、老若男女、人種を問わずウケている理由だろう。ブルックリンの街並みや住人の暮らしぶりについてはスパイク・リー(Spike Lee)監督が放つ異様な世界もお馴染みだが、クリスが描くブルックリンは最も典型的な明るいブルックリンで、生活密着型の背景にも非常に好感が持てる。これらが世界22か国と地域(オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、クロアチア、セルビア、フランス、ドイツ、インド、アイルランド、イスラエル、イタリア、中南米諸国、オランダ、ニュージーランド、ノルウエー、ポルトガル、モンテネグロ、サウスアフリカ、トルコ、イギリス、ベネズエラなど)で放送される理由の1つだろう。日本も、もうエッジを狙ったトレンディドラマ「90210」ではなく、大衆ドラマの同番組がお茶の間で展開されることに期待したい。
f0055491_6311446.jpg さて、実際のクリス・ロックはサウスカロライナ州生まれで、幼い頃、刑務所帰りの父・ジューリアス(Julius Rock)と、その父の初婚相手との間にできた義理の兄・チャールス(Charles)や2人の実弟・トニーとケニー(Tony and Kenny)と共に一家でブルックリンのクラウン・ハイツ(Crown Heights)にあるプロジェクト(低所得者住宅)に移り住んだ。早々にプロジェクトを出て、通称「Bed-Stuy」ことベッドフォード・ストゥビセント(Bedford-Stuyvesant=同左)に転居し、そこでの生活がドラマとなっている。
 番組のキャラクター設定では父の職業はトラック運転手で、朝は新聞社の朝刊を配達する仕事に就き、母・ローシェール(Rosalie)は家族の生活を支えるため、近所の不動産屋でパートタイマーとして忙しく働く日々となっているが、実際の母親は元教師で身体障害者の世話をする社会奉仕が主であったようだ。またドラマでは妹・トニャ(Tonya)がいる設定になっている。そもそも、この番組タイトル「エブリバディ・ヘイト・クリス」は、CBS局のロングラン大ヒットドラマ「エブリバディ・ラブス・レイモンド」(Everybody Loves Raymond)をもじったタイトルで、ロングアイランド・リンブルック(Lynbrook, Long Island)に住むイタリアン・アメリカンを描いた同ドラマのパロディ版としても受け止められている。どちらにしても「移民だらけのニューヨーク」を描いた秀作と言えそうだ。ドラマのクリスは、やや気の弱い黒人少年で、地元の人々に何かと便利屋として重宝がられたり、同級生たちのイジメの的になったり、黒人だからと苦手なバスケットボールの試合に選ばれたりもするが、町内ではひょうきんで両親の言い付けをちゃんと守り、弟妹思いの人気者である。思春期に当たり儚い恋もし、失恋も経験するなどティーンエイジャーの心をガッチリ捉えた鋭い感性はクリス・ロック自身の脚本による。
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■子役のタイラー君の年収は15歳にして1億2000万円也
 クリス・ロックはスクールデイズをブルックリンで過ごした後、20歳でニューヨーク市内にある有名な老舗コメディ・クラブ「キャッチ・ライジング・スター」(Catch a Rising Star=ロゴ同右)の舞台に立ち、地道に活動していたところをスカウトされ、22歳で「ビバリーヒルズ・コップ2」(Beverly Hills Cop II)で銀幕デビュー。その3年後には「サタデー・ナイト・ライブ」のレギュラー獲得と着実に階段を上りつめ、現在の地位に至っている。また同コメディ・クラブ出身者にはクリスを見出したエディ・マーフィの他、ビリー・クリスタル(Billy Crystal)やロビン・ウイリアムス(Robin Williams)、ウーピー・ゴールドバーグ(Whoopi Goldberg)といった大御所が名を連ねている。
f0055491_6331628.jpg ちなみにドラマでクリス役を演じているタイラー・ジェームス・ウィリアムス(Tyler James Williams=同左)君はウエストチェスター在住の15歳で、同番組には13歳の時から出演。彼は昨年「NAACP Image Awards 2007」のコメディ俳優部門で見事最優秀賞を受賞し、今では年間1億2000万円を稼ぎ出す名子役だ。タイラー君の実際の成長とともに大きく育っていくクリスの昨年までのドラマ設定は、クリスの6年生から9年生(小学生から中学生)が描かれていたが、来週10月3日金曜夜午後8時(東海岸時間)から始まる今季は、いよいよクリスの高校生ライフが描かれる——。
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■インフォメーション
◎クリス・ロックのオフィシャルサイト:www.chrisrock.com
◎番組「エブリバディ・ヘイト・クリス」のオフィシャルサイト:www.cwtv.com/shows/everybody-hates-chris
◎番組「90210」のオフィシャルサイト:www.cwtv.com/shows/90210
◎コメディ・クラブ「キャッチ・ライジング・スター」のオフィシャルサイト:www.catcharisingstar.com
◎「エブリバディ・ヘイト・クリス」シーズン1〜3のDVD(2005〜07年=同上)の購入はアマゾン・ドット・コム:www.amazon.comで(シーズン1〜3の通常小売りセット価格は$89.98)。

2008年9月26日号(vol.175)掲載
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by tocotoco_ny | 2008-09-26 06:38 | 2008年9月号

vol.174/表紙「自己愛性人格障害」

自分は重要な人間である——Narcissistic Personality Disorder
■自己愛性人格障害って、何?
「主導権発揮できず——」。福田康夫首相が1日、退陣表明して以降、自民党の総裁選が始まった。
 自民党総裁選は、党所属の「国会議員の票」(衆議院議員304人、参議院議員83人)と、党員投票に基づいて全国の47都道府県連ごとに決まる「地方票」(支部連合会代表各3名=計141人)の計528人の合計票で争い、得票が過半数に達する候補者がいなければ、上位2人による「決選投票」を国会議員だけで行う。総裁選に出馬するには国会議員20人の推薦が必要…と、連日報じられている通りだ。また今回、都道府県連が党員投票による初の「予備選」を実施することが6日、新たに決まった。f0055491_10262258.jpg
 総裁選の日程は10日(水)告示(候補者届出)、22日(月)党大会に代わる両院議員総会(投開票)となっており、デキレースとの噂も広まっているが9日(火=日本時間)現在、出馬を正式に表明しているのは麻生太郎幹事長(67=麻生派)、石破茂前防衛相(51=津島派)、小池百合子・元防衛相(56=町村派)、与謝野馨経済財政相(70=無派閥)、石原伸晃・元政調会長(51=山崎派)の5人で、立候補に意欲を示していた山本一太参院議員(50=町村派)は断念、山本議員と連携を調整していた棚橋泰文・元科学技術相(45=津島派)も20人の推薦人が確保できていない模様で苦戦を強いられている。
 一方、この後に控えた「総選挙決戦」で政権を変えようと躍起になっている民主党は、早期の衆議院解散を求めて行く考えで、公明党も年末、あるいは来年の年初に解散総選挙をやって欲しいとのシナリオだ。「11月解散、12月選挙という見方が、最も可能性として高い」と語る政治アナリストも多く、永田町は益々活発な動きを見せている。各党、各人とも「日本の将来のため、国民のため」とマニフェストを掲げ意欲満々だが、これらは今、問題となっている「自己愛性人格障害」と言えなくもないだろう。というワケで、今回の特集は、まだ聞き慣れない「自己愛性人格障害」について紹介したい。

■「私は特別」厚顔無恥で誇大、顕示欲の強さが特徴
 自己愛性人格障害(Narcissistic Personality Disorder)。あまり聞き慣れない病名だが、ひとことで言うと「自分は重要な人間だ、周りは(自分よりバカだから)自分を理解できない」と思い込んでいる人格障害の一種を指す。今年3月、茨城県土浦市のJR荒川沖駅で、刃物で次々と人を無差別に刺し8人を殺傷した犯人、金川真大被告(韓国名:金真大=キム・ジンデ=24)がこのほど「自己愛性人格障害」と診断された。金川被告は「世が世ならば、自分はもっと高い地位にいたはずだ」と、思い込んでいたとされ「魔法の世界は現実と違い、自分は特別な存在になれる。すべてが自分の思い通りにできる。だから死にたい」と犯行におよび死刑を希望している。また「痛いから自殺はいやだった」と自分勝手な言動も極まりない。f0055491_10324495.jpg
 この人格障害には、幼少期に過保護に育てられ「私は特別な人間なんだ」と思い込み、厚顔無恥で誇大、顕示欲の強さなどが特徴とされている。また逆に、幼い頃から親の愛情を受けなかったために「自分は本当はもっとすごいんだ」と空想し、傷付いた自尊心を取り戻そうとすることもあるらしい。主な症状として、アメリカ精神医学会のマニュアル(DSM-IV)には以下の9つが挙げられている。
(1)自分の重要性は大変大きなものと考えている(誇大な感覚)。
(2)限りない成功、権力や才能といった空想にとらわれている(限りない空想)。
(3)自分が特別な人間であるため、地位の高い人にしか自分は理解されないと思っている(特権意識)。
(4)過剰な賞賛を求める(過剰な賞賛の渇求)。
(5)自分だけに特権があると思っている(特別感)。
(6)自分自身の目的を達成する為なら、他人を利用する(対人関係における相手の不当利用)。
(7)他人に対する共感が欠けている(共感の欠如)。
(8)嫉妬または他人が自分に嫉妬していると思い込む(過剰な嫉妬)。
(9)尊大で傲慢な態度や行動をとる(傲慢な態度)。
 このうち、5つ以上該当する場合は、障害の可能性が高いと言われ、また、同障害の裏には「自己嫌悪」もあり、それを隠すために、反って思い込みが激しく出るという。当然、自覚はないため、相手の所為にばかりする傾向があり、他人の批判ばかりして自分を見ようとはしない。また、それすら、考えようとしない、あるいは万一自覚があっても、それを避ける方向にあるという。

■自分が特別な人間だから、周囲の凡人には理解できない
「しかるべき環境だったら社長になれる」「ノーベル賞が取れる」と豪語する人。しかし、何の根拠もなく、その実現に向かって何の努力もしないのが実状。さらに、物事が上手くいかないと「すべて周りのせいだ!」と自分の非を決して認めたがらない。中には、普段はおとなしいが、気に障ることがあると急にキレて暴力を振るうケース(大怪我をさせようとか殺そうという目的とは異なる)も見られるらしい。
 実社会では、そんな態度も通用せず、転職を繰り返し、またしても「自分が特別な人間であるから、周囲の凡人には理解できないのだ」と思う。また、若い人の場合(金川真大被告のケース)は、高校を卒業してから進学も就職もせず、コンビニでそこそこアルバイトをして自宅の部屋に籠りビデオゲーム三昧の日々を送るという。また抱えている不安感を解決させるため、自我の内部で「自己の評価を上げる」という。
 精神障害を持つ患者の多くがそうであるように、これらの患者もまた「自分が病気だ」とは思っていないため、自ら治療を受けにくることはほとんどない。よって精神疾患として扱われるケースもある(世界保健機関のICD-10「International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems-10」=疾病及び関連保健問題の国際統計分類/第10版では、正式な精神障害としては採用されていない)。
 原因としては、日本では過保護、アメリカでは虐待が多いという。この病気は境界性人格障害(疫学調査で人口の1、2%程度に存在する人格障害)とセットにして扱われる事もあるが、自己愛性人格障害の方がやや「内的規範」(倫理、道徳、慣習)が高いとされ、女性より男性に多いとされる。境界性人格障害とは「先天的異常」(生理学的な脳の脆弱性)や「幼少期の体験」(身体的虐待、性的虐待、過干渉、機能不全家庭など)が原因とされており、精神力動的精神医学からの研究がなされているが、生物学的な研究は少なく、未だ臨床の段階で結論には至っていない。また、境界性人格障害の回復期に、一過性の自己愛性人格障害を経るケースが多いという報告がある一方で、自己愛型防衛に失敗した自己愛性人格障害の患者が、境界性人格障害の状態を呈した例もあるというから、この2つの症例は複雑に絡み合っていると言えそうだ。またこれらは、対人関係の不安定さを回避しようと、引き籠り状態になることもあるため、回避性人格障害(不安性人格障害)と診断されることも多く、経過途中で自殺に至るケースも少なくない。

■自分は素晴らしく特別、かつ優越的で偉大な存在でなければならない
 誇大な感覚、限りない空想、特権意識、過剰な賞賛の渇求、特別感、対人関係における相手の不当利用、共感の欠如、過剰な嫉妬、傲慢な態度——。これらの症状に思い当たる(自覚できる)人は少ないと思うが、他からみて「ひょっとして?あの人……」と、他人の事ならドンドン指摘できてしまうのが人間の悲しい性である。福田首相が辞任会見で語った「新しい体制でと考えて辞任を決意した」というこの退陣理由を、額面通り受け取っている日本国民はどれくらいいるのだろう。最後に「私は自分を客観的に見ることができる。あなたとは違う!」と気色ばんだことも記憶に新しいが、得てして政治家たるモノ、いくら温厚そうに見えてもミーちゃんハーちゃん誰もかれもが「自己愛性人格障害」に見えてくる。日本では墓穴を掘る演説合戦がこれからの1週間、始まるワケだが、政権をオモチャのように欲しがったり、投げ出したりを繰り返している我が祖国。一方、ここアメリカは大統領選を11月に控え、共和党、民主党ともに全国大会を終え批判合戦も加速する中、いよいよ秒読み段階に突入した。
f0055491_1027525.jpg さて、あなたはどっちに関心がありますか? どちらの国の有権者であってもなくても、国としての在り方をじっくり考え直す好機かも知れない。

■補足<平成以降の総理大臣の任期/年代順>
◎宇野宗佑(うの・そうすけ)=1989年6月3日〜69日間
◎海部俊樹(かいふ・としき)=1989年8月10日〜818日間(通算)
◎宮澤喜一(みやざわ・きいち)=1991年11月5日〜664日間
◎細川護熙(ほそかわ・もりひろ)=1993年8月9日〜263日間
◎羽田孜(はた・つとむ)=1994年4月28日〜64日間
◎村山富市(むらやま・とみいち)=1994年6月30日〜561日間
◎橋本龍太郎(はしもと・りゅうたろう)=1996年1月11日〜932日間(通算)
◎小渕恵三(おぶち・けいぞう)=1998年7月30日〜616日間
◎森喜朗(もり・よしろう)=2000年4月5日〜387日間(通算)
◎小泉純一郎(こいずみ・じゅんいちろう)=2001年4月26日〜1980日間(通算)
◎安倍晋三(あべ・しんぞう)=2006年9月26日〜366日間
◎福田康夫(ふくだ・やすお)=2007年9月26日〜

2008年9月12日号(vol.174)掲載
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by tocotoco_ny | 2008-09-09 10:28 | 2008年9月号