カテゴリ:2008年5月号( 2 )

vol.167/表紙「香るオトコ」

香るオトコ「華麗なる臭い」
オトコ臭さを失うなっ!
男たるモノ!無臭であってはイケナイ

■何かと世間を騒がせている「加齢臭=旧オヤジ臭」。元々昔からニオった中高年特有の体臭を、近年単に言い換え、さも新たなニオイを発見したかのような…さも名コピーであるかのような騒ぎっぷりである。しかも予防専門サイト「加齢臭.com」(単なる通販会社)まである。
 その予防対策として「毎日入浴する。下着を替えるなど清潔第一」と、当たり前なコトを殊更大げさに伝える——。そんな陳腐なコピーに小躍りして特集するほどtocotoc編集部は愚かではナイ。あらゆるサイトで「男臭さ=加齢臭ではない」と伝えてはいるが、ある種のニオイ(体臭)が、加齢臭であろうとなかろうと、そもそも体臭は、その人の印、他の誰でもない独自の今生きているという証……すなわち貴重な「オリジナルブレンド・フレグランス」である。
 よって世の男性陣は、加齢臭などというおバカなコピーにビビらされてはイケナイ。男たるモノ!決して無臭であってはイケナイのである。デオドラント効果を謳う商品を毎日必死に纏い、口臭予防のためにガムを噛むのも周囲に対する最低限のエチケットである。しかし、人は生きている限りニオイを放ち、自分は確かにココにいるゾ!という証を残したい習性がある。人には、その人だけの昔懐かしいニオイがあるように、何年たっても忘れられない「人のニオイ」というものがある。昔の彼氏や彼女のことも、その人の体臭によって記憶に深〜く残る場合も多い。よって我が編集部では今回敢えて、ネガティブイメージの加齢臭を「華麗臭」と名付け、華やかに特集したい。
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まずは自分の体臭を自覚することが先決
セレブが愛用してる「華麗なる香り」とは?

■先頃、ニューヨークでアメリカ・フレグランス協会(The Fragrance Foundation=www.fragrance.org)が主催する第36回FiFi賞(FiFi Awards)の授賞式が行われた。同賞は、毎年最も注目を浴びたフレグランス製品を始め「香り」に関わる人物や雑誌、TVなどのメディアから香水のパッケージデザイン、販売戦略などに至るまで、あらゆるニオイについて選定され賞される(下記参照=インフォメーション項で今年入賞したフレグランスなどを紹介)。今年の大賞「Hall of Fame Award Honoree」にはブライダルデザイナーとして知られるヴェラ・ウォン(Vera Wang)が受賞した。ヴェラは「フレグランスは目に見えないアクセサリー。身につける人をより官能的に変えてくれる女性特権のアイテム。個人的なことでありながら(公的な)マナーでもあり、私にとって大切なもの」とコメントしている。
 往々にして欧米人は日本人より体臭もキツイ所為か、フレグランスを好んでつけている。かと言って、流行の匂いを誰もがつけている…という訳ではない。皆、ちゃんと「オリジナルブレンド・フレグランス」(体臭)を自覚して選んでつける。日本人にはこういった体臭に対する自覚症状が少ないためか、会社のオフィスが一時、流行の香りで充満する現象が生じたりもする。ミーちゃんハーちゃん女性の誰もがトレンドのニオイに包まれたがるが故である。もちろん華麗臭などの体臭を香水で誤摩化そうとパシャパシャ付けると、更に複雑なニオイの源となり得る。香水には消臭効果はないため、まずは自己の体臭を知る事から始めるのが先決だろう。
 同授賞式が行われた会場(Park Avenue Armory,=643 Park Avenue)には沢山のセレブが華やかに彩りを添えた。これらセレブと呼ばれる人たちにも、いくらスポンサーが付こうが、自分の体臭を自覚した上で厳選した外せないアイテムがあるようだ。f0055491_643464.jpg
「セレブたちのお気に入りの香り=Celebrity Fragrance Favorites」を公開しているサイト「SCENTSA=www.scentsa.com」によると、化粧品会社とのコラボによって発売されている「自分のブランド」を挙げるセレブはもちろん多いが、それ以外にお気に入りの逸品を挙げる人も数多い。今回受賞したヴェラ・ウォンの「Vera Wang for Men」(写真右)を愛用しているのは俳優のウィル・スミス(Will Smith)、また女性用「Vera Wang Princess」(同右)はブレイクしつつある若手女優のカミーラ・ベル(Camilla Belle)のお気に入りだ。
 さてさて今、苦戦を強いられているヒラリー・クリントン(Hillary Rodham Clinton)大統領候補の逸品はというと、ファッションデザイナーでフォトグラファでもあるティエリー・ミュグレー(Thierry Mugler)の「エンジェル=Angel」(写真左)だとか。
f0055491_6442439.jpg数ある彼の香水は97年以後、クラランスが販売権を持っている。ヒラリー以外にも「エンジェル」のファンにニコール・キッドマン(Nicole Kidman)も名を連ねている。そして、そのキッドマンのお気に入りの1つとして挙げられているのがクリーン(Clean=フュージョン・ブランズ社)の「Clean」(同左)だ。そのネーミングからくる清潔なイメージを演出してか、この「クリーン」ファンはセレブに多い。キャメロン・ディアス(Cameron Diaz)、ハル・ベリー(Halle Berry)、ジェシカ・シンプソン(Jessica Simpson)、サラ・ジェシカ・パーカー(Sarah Jessica Parker)などなど錚々たる顔ぶれだ。世の東西を問わず、一般人であろうがセレブであろうが、人はシャネルの5番よりもシャボンの「清楚な香り」に滅法弱いよう。名の通ったセレブに愛用者はいないようだが、クリーンは男性用も販売されているので新鮮な香りに包まれたい人は店頭のテスターなどで試されてはいかがだろう。

「華麗臭」と遺伝子の因果関係について   
父親のニオイを生理的に受け付けない娘たち

■さて、話を元に戻そう。40歳を過ぎると、男女を問わず「華麗臭」が始まる…という。ということは1968年(昭和43年)戊申(さる)年生まれ以降の人から、このニオイが放たれているということになる。では、どんなニオイなのか?との質問に「古くなったポマードのニオイが一番よく似ている」(資生堂研究所←加齢臭の名付け親)との回答である。
 オイオイ、古くなったポマード…って?と首を傾げたくなる。今現在、80歳を迎えておられる昭和1ケタ生まれのご老人でさえ、若かりし頃からポマードなんて使用しておられなかったであろう。余程のポマード愛好者か田舎者でもない限り、これら御大の方々でさえ「ヘアリキッド・ヘアトニック」の世代である。この他にも「ろうそく、古本、ブルーチーズなど。またはそれらが混ざり合った独特のニオイ」と、これまた分かるような分からないような不可解な説明である。
 ニオイは人によって察知する力も異なるが、そもそもニオイを感じ取る鼻(嗅覚)は、その性能の善し悪しに関わらず鈍感なものである。瞬間ニオったものの、数秒後には、そのニオイに慣らされてしまっている(嗅覚疲労というらしい)。それが人間の嗅覚である。
 バスの後部座席で嗅ぐ「浮浪者の腐って酸っぱくなる饐えたニオイ」ですら、イ〜ヤな思いをするは一瞬だけである。しかし、よく言ったもので「残り香」は実際にあるわけで、ニオイに思い当たる人物がいないのに強烈にニオイだけが実在している場合も多々ある。さて、そのニオイだが、どうやら遺伝子にも関係しているという。
 ある加齢臭対策を講じるサイトでみつけたのだが、とある調査結果で「華麗臭」は遺伝子から何らかの影響を受けている——とのことである。この調査というのは「女子学生に男子学生の体臭が付着したTシャツを嗅がせ、どのニオイが好ましいか」(調査対象の年齢、人数など全く不明)という実験だったらしく、その結果「自分とは異なるHLA(白血球の血液型=自と他を認識するマーカー分子)型のニオイがより好ましい」という回答が多く得られたそうだ。
 よって娘にとって一番近い遺伝子を持つ「父親のニオイ」は、最も好ましくない=クサイと感じ、クサイ=オヤジ臭=華麗臭という方程式が成り立つと結論づけている(ちなみに女性は子孫繁栄のため、異なる遺伝子を求めるという習性があるらしい)。年老いた際、息子の嫁より実子の娘に介護を頼みたい…などと思っていたら大間違いである。いくつになろうが娘は父親のニオイが大嫌いなのである。

タフガイはお門違いか?
恐怖症にもなりかねないオトコ心

■ダンディズム=男臭さ。そう思われていた時代は確かにあった。「ウ〜ン、マンダム」と俳優チャールズ・ブロンソン(Charles Bronson)が顎をなぞる名シーン。広告にブロンソンを起用していた70年当初(広告写真=73年撮影)は、まさに「男の領域=Man Domain」を意味した同社の社名「mandom」が脚光を浴びた。流行語にもなった同フレーズが曲中に入った同社のCMソング「男の世界」(歌手:ジェリー・ウォレス=Jerry Wallace/写真下)も売り上げ120万枚の大ヒットを放ったが、同社は後84年、女性化粧品事業へ参入するに伴って、この略称の意味を「Human & Freedom」に変更している。f0055491_6463259.jpg
 そう、84年以降、世の中から「男の世界=男臭さ=ダンディズム」は抹殺され、すべて女性化…というよりユニセックス化の時代へと移り変わった。カルバン・クライン(Calvin Klein)に代表されるように、化粧品も「無香料」がトレンドとされる90年代に突入。その無香料の黄金期以降、現在に至るまで、人は「抗菌」を謳う商品に走るようになった。大腸菌O-157感染が問題になってからは、さらに抗菌ブームは過熱し、日用品や文房具からまな板などの調理器具や風呂場の浴そう用品、靴下や下着などの衣類に車のハンドルに至るまで「抗菌シール」が張られるようになった。手に触れる物すべてと言っていいほど「抗菌防臭」の分野は広がっている。
 その一方で、強迫性障害の一種である「不潔恐怖症」が増えているという。その要因の1つに「不潔」というマイナスイメージを、殊更強調する今の風潮があるらしい。要するに「華麗臭」においても騒げば騒ぐほど、女性より遥かに神経質なオトコたちは「恐怖症」となって男臭さを失ってしまうような気がする。
「タフな男」のイメージはマイナスなのか——。力強いとか逞しいといった「男の中の男」のイメージは、最早格好悪い妄想、若い人の言葉でいうなれば「ダッサア〜イ、ダサダサ」な感じなのだろうか。それは女性が男性に「優しさ」を追求するあまり出された結果なのだろうか。タフガイは時代遅れで暑苦しく、ウザイ存在なのかも知れない。
 柔弱であったり、いくじがない男性をさして「女々しい」とネガティブに使う言葉は現代でも十分通じる。しかし、男らしくて勇ましいさまを示す「雄雄しい=おおしい」は、耳にすることがなくなってかなりの年月が経つ。潔(いさぎよ)くて力強いという意味であるが、今の世の中、思い切りがよく、未練がましくなくて小気味イイ男は、絶滅品種に属しているのだろう。やはり文化とともに言葉も消えゆくものである。

誰もが平等に歳をとり老醜を曝すし老臭も放つ
オヤジとは適度のマナーを守る節度ある大人

■世には「華麗臭を防ぐ」という色んな商品が出回っている。なんと「加齢臭用のお菓子」まで販売されているが、これらは体臭予防もしくわ単なるダイエット食品などの商品と大差ない。要するに、常に清潔を心がけ、飲酒や喫煙は控えてストレスの少ない規則正しい生活環境を作りましょう!というスローガンである。
 それに加えて「動物性脂肪は控えて野菜を多く食べましょう」「ベータカロチン、ビタミンC、ビタミンE、DNAなどを摂りましょう」と何にでも効くような一文も必ず添えられている。「華麗臭」を防ぐには内部から変えることが有効とされ、食生活の見直しが必要と明言している。各種サプリメントで補うのがベストというが、それらは華麗臭に関わらず中高年になると否が応でも考えさせられ、人から勧められる数々のポイントである。分かってはいるが、そうは言ってもなかなか止められないのが飲酒、喫煙に、焼き肉、カツ丼といったコッテリ系メニューだ。年を取ったからといって明日からハイそうですかと、趣向を簡単に変えられるほど、人間聞き分けがイイわけでもない。
 体臭は放置された汗が雑菌に分解されて生じる…となると、特別な抗菌製品を使用せずとも、ちゃ〜んと毎日入浴して洗髪もし、着替えもこまめにすること。やっぱりこれが最も簡単で究極に効く「華麗臭」の対処法である。適度のマナーを守って節度ある行動をとるのが「オヤジ呼ばわりされている大人」である。華麗臭はワキガでも饐えた酸っぱいニオイでも口臭でも足のニオイでもない。ましてや個人差はあれども、男女とも誰もが通らなければならないニオイの関門である。誰もが皆、平等に歳をとるし老醜を曝すし老臭も放つ。ヘンに隠し立てせず、大人の自覚を持って堂々と「華麗臭」を周囲に放つオヤジたちを、私個人としては諸手を挙げて応援したいところだが……哀しいカナ今の世の中、その雄雄しいさまを拍手喝采で歓迎する風潮は皆無であろうことも、また事実だ。

インフォメーション【THE 36th FiFi AWARDS WINNERS】
(各賞の名称→受賞者またはブランドおよび会社名→発売元の順)
■Hall of Fame Award Honoree → Vera Wang(Vera Wang)
■Fragrance Hall of Fame → Annick Goutal Eau d’Hadrien(Gary Farn, Ltd.)
■Fragrance of the year
 Women’s Luxe → Daisy Marc Jacobs(Coty Prestige)
 Men’s Luxe → Dolce & Gabbana Light Blue Pour Homme(P&G Prestige Products, Inc.)
 Women’s Nouveau Niche → Prada Infusion d’Iris(Puig Beauty & Fashion Group)
 Men’s Nouveau Niche → Armani Privé Vetiver Babylone(Giorgio Armani Beauty)
 Women’s Private Label / Direct Sell → Christian Lacroix Rouge(Avon Products, Inc.)
 Men’s Private Label / Direct Sell → Derek Jeter Driven Black(Avon Products, Inc.)
 Women’s Popular Appeal → Intimately Beckham Women(Coty Inc.)
 Men’s Popular Appeal → Intimately Beckham Men(Coty Inc.)
■Editorial excellence in Fragrance coverage
 Women’s Scent Feature → Allure
 Women’s Scent Bite → Marie Claire
 Men’s Feature→ BestLife, ELLE(同点)
■Technological breakthrough of the year → Certified Organic Preservation(The Estée Lauder Companies)
■Retaile of the year → Bloomingdale’s
■Bath & Body Line of the year → Origins Organics(Origins Natural Resources)
■Interior Scent of the year → Gump’s San Francisco Home Collection (Majestic Range, Treasured Range & Opulent Range, Latitudes International)
■Best Packaging
 Women’s Prestige → Marc Jacobs Daisy(Coty Prestige)
 Men’s Prestige → Attitude by Giorgio Armani(Giorgio Armani Parfums)
 Women’s Popular Appeal → Christian Lacroix Rouge(Avon Products, Inc.)
 Men’s Popular Appeal → Intimately Beckham Men(Coty Inc.)
■Best National Advertising Campaign
 PRINT → Kelly Calèche(Hermès)
 TV → Coco Mademoiselle(Chanel)
2008年5月30日号(vol.167)掲載
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by tocotoco_ny | 2008-05-30 06:47 | 2008年5月号

vol.166/表紙「2008 international year of the potato」

2008 international year of the potato
今年は泥臭いイモが主役に!f0055491_36152.jpg
●決してメインにはなれないが、主役を引き立てる添え物(名脇役)の代表格というポジションを維持し続ける「ジャガイモ」。普段の何気ない食卓に、このジャガイモはさり気によく登場している。フレンチフライに肉じゃが、カレーにシチュー、コロッケ、ポテトサラダ……老若男女を問わず、好き嫌いの感覚さえないまま知らず知らず口にしているポテトだが、このポテトがナント今年、日の目を浴びて主役の座となっている。
 2008年は国連が定める「国際ポテト年」(International Year of the Potato)。国連では毎年、取り組むべき重要なテーマを決めて「国際年」を定めており、2008年は発展途上国における食糧確保の問題として「ジャガイモ」を指定した。国連食糧農業機関(FAO)などの下、今年は徹底してポテトを世界的にアピールしようと、世界各国で貧困や飢餓根絶に向け、食料としてのポテトの重要性を訴える催しが開かれている。そう、ポテトと言えば何だか聴こえはいい(?)が、正直いうと単なるイモである。日本での芋の引用句は「イモねーちゃん」「イモにーちゃん」を始めとするネガティブなイメージ。英語でも「ホットポテト」(hot potato=誰もやりたがらない企画や立案、厄介なこと)「ポテトディッガ」(potato digger=嫌なヤツ)などなど、言葉でもトコトン軽視されているジャガイモについて今回はちょっと調べてみた。

死語になったカウチポテトからマウスポテトへ
●80年代、日本でも流行語になった「カウチポテト」。今ではそんな言葉を口にする人はもういない…、というかカウチポテト族を知らない世代が台頭する世の中である。今でもカウチでゴロンと横になり乍らダラダラTVを観ているのは50代より年長な人たちであろう。数10年前から、ここアメリカではそのカウチに変わって「マウスポテト」と命名される族が既に君臨。すなわちコンピュータ画面の前から動かず、マウスを握りしめたままポテト(チップス)を食する族=日本的に言えばオタク=という意味である。さて、この英語のポテト。その名の由来は、原産国、南アメリカのアンデスで栽培されていたイモの「パパス」から来ていて、このパパスをスパニッシュが欧州に持ち帰って「パタタ」(あるいはパパ)と呼んだのが始まりらしく、イタリアンでは同じく「パタタ」、英語圏では「ポテト」、ターキッシュは「ポタテス」でアラビアンでは「パタータス」となったと言われている。では日本の「ジャガイモ」は?というと、インドネシアのジャカルタからダッチ(オランダ人)によって日本に持ち込まれた「ジャガタラ芋」、これがなまってジャガイモとなったとされている。また北海道での呼称「馬鈴薯」は、イモの形が馬の首につける鈴に似ていることからその名がついたと言われる説や「マレーのいも」が「ばれいしょ」と訛ったという説、中国語の「馬鈴薯」がそのまま伝わったという流用説などもある。f0055491_373199.jpg 日本の「フライドポテト」(またはポテトフライ)はもちろん和製英語である。アメリカでは「フレンチフライ」と呼んでいるが、本国フランスでの呼称は「ポム・フリット」(または「ポン・ヌフ」)であり少しややこしい。すなわちフレンチフライとはアメリカで勝手に名付けられたワケで、移民大国アメリカにフランス語を話すベルジャンたちが持ち込んだ一品が、フレンチフライの根源。フランス語を話す彼らをフレンチだと勘違いした短絡的なアメリカ人気質からそう呼ばれたというのが有力説である。ちなみに数年前、このフレンチフライの名称をめぐって米仏間でイザコザが起こったのも記憶に新しい。イラク戦争当時、アメリカ軍によるイラク攻撃を強硬に反対し続けたフランスに対して不快感を表すために、下院にあるレストランで「フレンチフライ」を「フリーダムフライ」(攻撃することによってイラクに自由をもたらすという勝手な言い分)とメニューを書き換え、このイデオロギーが国内の一般のレストランにも波及。ところが、これを受けて在フランス大使館は「フレンチフライはもともとベルギーからフランスに伝わったものなんですけど」と皮肉たっぷりのコメントを出して小競り合いが終止したという、これまた笑える勘違いっぷり!とてもアメリカンな話である。しかしアメリカ人のいいところは、悪びれたり意固地になったりすることもなく、あっさりフレンチフライに戻すあたりである。

数式<ジャガイモ+戦争=ファッション>
●戦争と言えばもう一つ、ジャガイモにまつわるエピソードがある。しかし、その前に少しファッションについて説明しなければならない。そもそも「戦争とファッション」は因果関係が深く、紐を解き始めるとキリがないので簡単に端折るが、まずはトレンチコート(trench coat)のトレンチとは、戦場における塹壕(ざんごう=戦場で歩兵が敵弾を避けるために掘った土や土嚢を積み上げたもの)の意味で、イギリス軍が兵士に支給した悪天候用の防水レインコートが現在のトレンチコートの起源である。そのトレンチコートに採用されていた袖がラグラン袖(raglan sleeve)で、これは襟ぐりから袖下にかけて斜めの切り替え線の入った袖型の1つ。着脱し易くコート類やスポーツウエアなどに用いられるこの袖が、ジャガイモに関係するワケだ。
f0055491_383449.jpg 時はクリミア戦争(1853‐56)末期。イギリス軍兵士の食糧として重要な役割を果たしてきたジャガイモ(ちなみに日本海軍の兵士たちに栄養を与えるために考案されたメニューは「肉じゃが」)が入っていた「麻袋」が一躍、日の目を見ることになったのである。初代イギリス軍総司令官ラグラン将軍は、厳しい寒さで兵士たちの戦力が低下する中、この麻袋を利用して防寒用のコートを試行錯誤。しかし腕を怪我した傷病兵は普通のコートでは袖が通せず、何とか傷病兵がラクに袖が通せて脱着も簡単な袖付けはないか!としてこの世に生み出されたのが「ラグラン・スリーブ」。すなわち将軍の名前から付けられた袖である。総じて、軍服として持っていた機能性が日常生活にも及んで、尚かつファッション性があるということで定着したということだ。ついでに言えば、カーディガンもこのクリミア戦争で戦功を上げたカーディガン伯爵から名前がついたという。

ジャガイモから生まれた「21世紀プラスチック」
●何かと料理に用いられている「片栗粉」の正体は、実は「ジャガイモでん粉」である。日本料理では糊の役目として大活躍し、中華料理ではトロミ役に欠かせない片栗粉。その透明感が買われ高品質の素材として、世界各国で色んな調理法に使われている。片栗粉こと、このジャガイモでん粉はアイスクリームや菓子類、かまぼこや竹輪、魚肉ソーセージなどの水産練加工食品のほか、うどん・そばなどのインスタント麺や生麺、お鍋にかかせない春雨(はるさめ)などなど、多くの食品加工に使われており、独特の歯応えと素材の味をひき立てる役割を担っている。他にもオブラートなどの薬品類、洗濯用糊や切手の糊としても幅広く用いられ「糊」としての存在はかなり大きい。
 また近年、ジャガイモからプラスチックを製造する研究も進められている。これは石油から作られる従来のプラスチックとは異なり、ジャガイモのでん粉を発酵させてできる「ポリ乳酸」から生まれ、土に埋めると微生物によって水と二酸化炭素に分解される「生分解性プラスチック」と呼ばれるものである。生分解性プラスチックは環境への負荷を低く抑えられる地球にやさしい「エコ商品」であるため、工業製品など幅広い分野での利用が期待されている。買い物バッグの代名詞だった「プラスチック・バッグ」が敬遠されて早数年。これらに打って変わって、プラスチック・バッグほか、食品包装用の透明フィルムや農業用のマルチフィルムなどに生分解性プラスチックが使われて出しているという。最も意外なところでは、外装部に生分解性プラスチックを用いたノートパソコンも発売されているとか。

あるある大辞典的「ジャガイモ」
●ジャガイモは、低カロリーかつ脂肪分ゼロ!おまけにビタミンが豊富なシロモノ。ジャガイモの成分は100gのうち、79.5gが水分で16.8gは糖質。そして、そのほとんどが良質のデンプンでカロリーは同量のごはんの約半分。またコラーゲン合成を促し血管や皮膚、粘膜、骨を強くして血中コレステロールを下げるビタミンC(100g中の含有量23mg)や、塩分を体外に運び出し血圧を下げるカリウム(100g中の含有量410mg)なども多く含まれており、でんぷんによって保護されているため、加熱しても壊れにくいという大きなメリットもある。また意外や意外、ジャガイモに含まれるサポニンという物質には界面活性剤としての働きがあり、ジャガイモの皮(皮の内側の実のついた部分)でコップを磨くとガラス面につやが出る。
f0055491_310014.jpg 冬場になると日本の居酒屋で「親父さん、いつもの!」と、イモ焼酎のお湯割を注文するオヤジたち。このイモ焼酎というとサツマイモを原料とした九州のさつま焼酎が有名だが、ジャガイモを原料としたイモ焼酎もちゃんとある。日本初のジャガイモ焼酎「きよさと」は約30年前の79年、北海道オホーツクで誕生。現在では「パパスファーム」「オホーツク」「北緯44度」「伍升譚」など、ジャガイモ焼酎は北海道を代表するお酒。また昨年には東京(檜原村)生まれの「HINOHARA」(写真右)という焼酎も発売された。もちろん海外にも「アクアビット」(Akvavit)と呼ばれるジャガイモを原料とした蒸留酒(酒税法上はスピリッツに分類)がある。キャラウェイやフェンネル、アニスなどのハーブで香りをつけたアクアビットは、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーなど主に北欧の寒い冬には欠かせない(写真左)。
f0055491_3112854.jpg フランスでおふくろの味と言えば冷たいポタージュスープの「ヴィシソワーズ」(Vichyssois)。これは1917年、当時ニューヨークのザ・リッツ・カールトンホテルで腕を奮っていたフランス人シェフのルイ・ディア(Louis Diat)さんが、夏にポタージュがあまり出ないことから、実母が作ってくれた「温かいポタージュの翌朝メニュー」(すなわち残り物活用メニュー)を思い出して「ミルク入りジャガイモの冷たいポタージュ」を考案したというのが有力説。今では夏のスープの代表に昇格。ヴィシソワーズ(ヴィシー風)の名前の由来はルイ・ディアさんの生家にほど近い温泉保養地「ヴィシー」から(イリノイ州にあるフレンチレストラン「Le Vichyssois」のHPによると、76年にフランス(リオン)の有名レストラン「ポール・ボキューズ」の当時のシェフ、バーナード・カルティエさんが考案したとも?)。
f0055491_3124017.jpg ダサイからと若者から邪険にされる、そこらのオヤジには無縁の「お座敷遊び」の中に、ちょっと小粋な「イモ・ゴルフ」というものがある。駅のホームで傘の柄を振り回す迷惑なオヤジは前述の親父。粋なオヤジはお座敷上で、同じ傘の柄でジャガイモを打って、畳半分ほどの大きさの紙に同心円などを描いて広げた的の中心向け、一畳ほど離れたところからジャガイモをころがして遊ぶ。中心に向かうほど高得点、合計得点を競い合う単純なるゲーム。
 調理の裏ワザとしては、ジャガイモを茹でるとき梅干しを一緒に入れると煮崩れ防止に。ジャガイモ5個に対して梅干し3個が大体の目安。煮物崩れの原因はジャガイモに含まれるペクチンが熱によって溶け出し、細胞がばらけること。梅干しに含まれるクエン酸はこのペクチンをゼリーのように固める効果がある。また牛乳に含まれるカルシウムにもペクチンを硬くする効果がある。また、米のとぎ汁は細胞壁を壊して味をしみ易くする作用がある。ボールにジャガイモが5〜8割程度浸かるように牛乳を注ぎ、その上から米のとぎ汁をヒタヒタまで加えて30分ほど放置しておくと美味しく調理ができる。ジャガイモの千切りを炒める時は、15秒程度湯通ししておくと、中まで十分に火が通って炒め時間も短縮でき、シャキシャキに上手く仕上がる。「ポテサラ」の下味付けは熱いうちに!ジャガイモが熱いうちは組織がやわらかく味がしみ込みやすいので塩、コショウ、レモン汁、酢などの下味は必ず冷める前に。マヨネーズで和えるのはしっかり冷めてからが鉄則。ポテサラは冷蔵庫で冷やすとデンプンがβ化(老化)して口当たりが悪くなるため作り置きしないのがお約束。茹でたジャガイモを冷凍すると、解凍した時にスカスカになってしまうため、冷凍する前に潰して繊維を壊しておくとスカスカにならず、風味も損なわずに保存できる。解凍時は電子レンジで一気に!

■今回の特集で参考にした参考資料先一覧(以下の通り)
■カルビーの「ポテト辞典」=www.calbee-potato.co.jp
■日本いも類研究会顧問、浅間和夫氏「じゃがいも博物館」=www.geocities.jp/a5ama
■「2008 international year of the potato」=www.potato2008.org
2008年5月16日号(vol.166)掲載
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by tocotoco_ny | 2008-05-16 03:17 | 2008年5月号