カテゴリ:2008年8月号( 2 )

vol.173/表紙「Beauty and the Best——Ana Ivanovic」

Ana has one goal: to become the world's number one.
「セルビア旋風」は最早留まることを知らない
■北京オリンピックの興奮が醒めやらぬ翌25日、ニューヨークの初秋恒例の祭典「US OPEN」が始まった。今年は40周年に当たるとあってオープニング・ナイト・セレモニーでは歴代チャンピオンの面々が登場し、会場を一気に湧かせた。最後に壇上に現れたマリア・シャラポアの人気も、未だ衰えてはいないが、そのシャラポア人気を凌ぐ新星の女王、アナ・イバノビッチ(セルビア=写真左)の勢いは誰にも止められそうにない。f0055491_6433359.jpg
 アナ・イバノビッチはプロ転向5年目にして今年の全仏オープンで念願のグランドスラムタイトルを手にし、遂に世界ランキング1位となった。「美しさと強さ」その両方を兼ね備えたプレーヤーに高まる人気はウナギ上りである。愛くるしい笑顔でインタービューにもハキハキと受け応えすることからメディアでの評判も上々だ。アメリカのテニス雑誌「TENNIS WEEK」が今春3月号で行った「歴代の最も美しい女子テニスプレーヤー」の投票結果でも2位のアナ・チャクエタゼ(ロシア=26%)や3位のガブリエラ・サバティーニ(アルゼンチン=18%)、4位のシャラポア(ロシア=13%)をダントツで引き離し、堂々の1位(41%)に輝いている。
f0055491_645685.jpg 男女、ジュニアの区別なしに、○○ビッチ、△△ビッチと、やたら名前に「ビッチ」が付く選手が席巻しているテニス界。彼らはすべてセルビアの期待の星である。昨年、ノバク・ジョコビッチ(男子第3シード)が「ボクたちの国、セルビアは、テニスプレーヤーメーカーなんだ。毎日すごい選手が次々産まれているよ。街を歩けば選手に当たる…みたいな」と笑ってインタビューに応えていたが、これらは満更、冗談だとも言い切れない。前出のテニス雑誌「TENNIS WEEK」のアメリカとセルビアの比較調査によると、アメリカの総人口約3億315万1000人に対してトップ10プレーヤー数は男子が1人で女子が2人、ニューヨークにおけるコート数は500となっている。一方、セルビアは国民総人口1035万人(アメリカの約3%)に対してトップ10プレーヤーは男女ともにアメリカと同数、またベオグラードにおけるコート数は180と、人口比率からするとコート数は多く、テニスが盛んであることが伺える。こんな「テニス最強選手主要産地国」から産み出された美女、それがアナ・イバノビッチ(20)である。f0055491_743324.jpg
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 彼女は1987年11月ベオグラードで生まれ、5歳からテニスを始めたという。セルビアとはセルビア共和国で、南東ヨーロッパ、バルカン半島西部に位置し、今から2年前の2006年6月、モンテネグロの分離独立に伴って独立宣言をした国である。首都ベオグラードは、旧ユーゴスラビア連邦および旧セルビア・モンテネグロの首都でユーゴスラビア連邦の中心である。そんなベオグラードで生まれたイバノビッチは、当然独立紛争に巻き込まれながら成長を向かえている。
 ボールや施設も満足に使えない中、爆撃から身を守るため早朝練習に励むなど過酷な状況の中、トレーニングを重ねた上での、今日がある。186センチという長身から繰り出す強力なフォアハンドとパワフルなサービス、しかも長身ながらコートのカバー率も高いことが評価され、今年の全仏オープンでは、見事セルビア国籍の女性初のグランドスラムタイトルを獲得した(現在、イバノビッチの居住国はスイス)。そんな彼女の人気たるやセルビアのみならず世界中へと広がり、現在、彼女のオフィシャルHPサイト「ana ivanovic」(www.anaivanovic.com)のヒット数は、世界の女性アスリートのホームページの中でも最多といわれる。f0055491_6443069.jpg
 先ごろの北京五輪では右手親指の負傷のため棄権したが、彼女のHPのメッセージ「北京からのポストカード」(8月6日)によると、レーザー治療を続け回復に向かっていると発表。他にも五輪のユニフォームが入ったバッグが盗難にあった事件(後日解決)など中国でのハプニングも伝え、普通のハタチの女の子らしく「バレーボールとダイビングを観戦するのが楽しみ!」と綴っている。また19日「アメリカからのカード」では、ニューヨーク入りしたものの自身のキャリアの中で、今が一番過酷な時期だと伝え、日々、ゆっくりフォームを整え、同行している主治医の指示に従って初戦をクリアしたいと意欲を綴っていた。そして26日の初戦結果は、2対1でベラ・ドゥシェヴィナ(ロシア)を下し、着々とセカンドラウンドに進出している(セカンドラウンドは28日木曜/対ジュリー・コイン=フランス)。
 日本しかり、アメリカしかり。「5歳からテニスの英才教育が受けれるなんて、きっと、どこかのボンボンかお嬢様に違いない……」という図式に、セルビア人選手たちはアテはまらない。彼らには「スポ根魂」というか、他国の選手たちとは明らかに違う「勝利への執着」があるように思えるのは、敗戦を味わった国民の経験則からだろうか。15歳で敗戦を知った時、ロッカールームで4時間も泣き続けたというイバノビッチ……。彼らの「逆境に強く負けず嫌い」という精神的な強さが、今後も各国のコートで爆発するだろう。21世紀のテニス界に吹き荒れる「セルビア旋風」は、最早留まることを知らない。

日本へのお土産にも最適な「US OPEN」グッズ
■さて、今年で40周年を迎える「US OPEN」はノベルティーグッズが目白押しである。Tシャツやタオル、帽子などは定番アイテムで、コレクター間では毎年必須の買い物かも知れない。しかし、今回はノベルティーズの中でも比較的安価で、日本へのお土産にも最適なグッズの数々を紹介しよう。同商品の購入は「US OPEN」のオンラインショップ(www.usopenshop.org)で。合計金額75ドル以上でアメリカ国内送料無料ほか「USオープン・マウスパッド」などの特典オマケ付き(商品は写真左上から時計の針順/全て税別)。商品は海外へも配送可能。
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★2008年オフィシャル・トーナメントプログラム(2008 US Open Official Tournament Program)/17ドル
★ペン付きノート(US Open 2008 Earth Friendly Journal and Pen)/16ドル/リサイクル紙使用
★フリースの毛布(US Open Championships Fleece Stadium Blanket - Heather)/30ドル/綿80%、ポリエステル20%/4.10インチ×7インチ/カラー:霜降りグレー
★ナップサック(US Open Cinch Sack)/10ドル/カラー:黒+青・黒+赤/ポリエステル100%
★2009年カレンダー(2009 US Open Calendar)/14.99ドル/1月=ロジャー・フェデラー(スイス)、2月=ジュスティーヌ・エナン(ベルギー)、3月=ラファエル・ナダル(スペイン)、4月=セリーナ・ウイリアムス(アメリカ)、5月=ボブ・ブライアン&マイク・ブライアン(アメリカ)、6月=アナ・イバノビッチ(セルビア)、7月=ジェームス・ブレイク(アメリカ)、8月=ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、9月=マリア・シャラポワ(ロシア)、10月=アンディ・ロディック(アメリカ)、11月=ビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)、12月=イェレナ・ヤンコビッチ(セルビア)
★ハンディバッグ(US Open Earth Friendly Reusable Carry-All)/5ドル/プラスティックのリサイクル素材使用/4インチ×4インチ×6.5インチ
★インタラクティブDVDボードゲーム(Break Point US Open DVD Board Game)/34.99ドル/8歳以上対象の2〜4人用ゲーム板(DVD付き)

■インフォメーション
「US OPEN」は9月7日(日)まで/オフィシャルサイト=www.usopen.org

■8月29日以降の「TV Schedule」は以下の通り(放映時間帯は東海岸時間)
29日(金)午前11時〜午後5時=USA局、午後7時〜11時=USA局(男子シングル2回戦、女子シングル3回戦)
30日(土)午前11時〜午後5時=CBS局、午後7時〜11時=USA局 (サードラウンド)
31日(日)午前11時〜午後6時=CBS局、午後7時〜11時=USA局 (男子シングル3回戦、女子シングル4回戦)
1日(月)午前11時〜午後6時=CBS局、午後7時〜9時=USA局、午後9時〜11時=CNB局(フォースラウンド)
2日(火)午前2時〜4時=USA局(マッチ・オブ・ザ・デー/録画)
     午前11時〜午後6時=USA局、午後7時〜11時=USA局(男子シングル4回戦、女子シングル準々決勝)
3日(水)午前2時〜4時=USA局(マッチ・オブ・ザ・デー/録画)
     午前11時〜午後6時=USA局、午後7時〜11時=USA局(準々決勝)
4日(木)午前2時〜4時=USA局(マッチ・オブ・ザ・デー/録画)
     午前11時〜午後5時=USA局(男子シングル準々決勝、混合ダブルス決勝)
     午後7時〜11時=USA局(男子シングル準々決勝、女子ダブルス準決勝)
5日(金)午後12時半〜6時=CBS局(男子ダブルス決勝、女子シングル準決勝)
6日(土)正午〜午後6時=CBS局(男子シングル準決勝)、午後8時〜10時=CBS局(女子シングル決勝)
7日(日)午後1時〜2時半=USA局(女子ダブルス決勝)、午後4時〜7時=CBS局(男子シングル決勝)

2008年8月29日号(vol.173)掲載
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by tocotoco_ny | 2008-08-28 06:48 | 2008年8月号

vol.172/表紙「POLAROIDS:MAPPLETHORPE」

Robert Mapplethorpe REMEMBERD
芸術作品か、わいせつ図画か-------日本での最高裁の判決
■芸術作品とみるか、わいせつ図画と捉えるか——。男性器の写真が無修正で掲載されているロバート・メイプルソープの写真集「MAPPLETHORPE」が、日本での輸入禁制品(わいせつ書籍)に該当するかが争われていた、いわゆる「メイプルソープ事件」の最高裁判決が、約10年という長い年月を経て、今年2月、遂に下った(事件の詳細は tocoloco参照)。f0055491_23541437.jpg
 今やインターネットで、いくらでも無修正画像が手に入るこの時代に、延々と、わいせつか否かを繰り広げていたことにも驚くが、逆に「わいせつ図画」とは一体、何なのか? 今の時代、どういうモノを指して「わいせつ」と判断するのかが、益々不透明になってきた感がある。
 モチーフが同じ裸体であっても、世紀を越えて芸術性が高いと称されるモノもあれば、全く認められない(認めてもらえない)モノも多々ある。
 作品とは、作家の意志とは関係なく、常に観る人側からの判断に委ねられ、独り歩きするモノである。
 写真や図画に関わらず、映画などの作品も含めてそう言えるが、奇をてらった(風変わりなことをして人の関心を引く)モノへの評価は、極端に高いかその逆か、どちらかである。さて今回は、このわいせつ論争にまで至った人物、ロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)について紐解いてみたい。

セックス&ドラッグ、そしてエイズ-------70年代、NYに生きたアーティスト像
■ティーンの頃はミュージシャンに憧れ、やがて写真に興味を持ち始めてアーティストとなり、セックスにSMプレイ、ドラッグ、ゲイ、エイズ、死……という「70年代の図式」にぴったりハマる芸術家の1人、ロバート・メイプルソープ(自身によるポートレイト=写真上)。
 当時、ここニューヨークで生きたアーティストの典型といえるだろう。f0055491_2191755.jpg
 彼は1946年11月4日、ロングアイランドのフローラル・パークで生まれた。16歳で家を飛び出し、その翌年、ブルックリンにあるアート系カレッジ「Pratt Institute」(200 Willoughby Ave. Brooklyn/www.pratt.edu=同右)に入学し、グラフィックや絵画、彫刻などを専攻している。
 そして、この頃に知り合ったのが、シカゴ出身の女性パンクアーティストで詩人のパティ・スミス(Patti Smith=同左上)だ。
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 彼らの関係が友人であったのか恋人だったのかについては、未だ賛否あるが、70年代前半、確かに彼らは、イーストビレッジにあった彼の最初のスタジオ(24 Bond St./現:The Gene Frankel Theatre)や、チェルシー・ホテル(Chelsea Hotel=同右)で同棲を始めている。
 芸術家やミュージシャンの溜り場と化していた同ホテルでは、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol=同左下)を始めとする「ゲイカルチャーへの美意識」が高まる中、性の解放とゲイの権利を得るという時代背景にのって、様々なポップカルチャーや音楽が生み出されている。f0055491_2215075.jpg
 ロバートは元々、フォトグラファーを目指していた訳ではなく、ポルノ雑誌などから男性の部分イメージを切り抜いてコラージュするという作風で、その過程上に「ポラロイドカメラ」という頼もしい武器を見出し、のめり込んでいったといえる。
 25歳で彼は初めて「ポラロイドカメラ」(Polaroid SX-70)という武器を手にするが、このカメラを贈ったのは、彼の最初のボーイフレンドと言われている写真家でモデルのデヴィッド・コロランド(David Croland/davidcroland.net=同右上)である。
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 約3年間、ボーイフレンドとして付き合っていたというデヴィッド曰く、ロバートはコカイン中毒の超サディストで「自分が彼のSMプレイについてゆくのに充分なマゾヒズムではなかった」と、後に別れた理由を語っている。また、最後までロバートをサポートし続けたパトロンで真の恋人といわれる、美術品コレクターのサム・ワグスタッフ(Sam Wagstaff=同右下)を彼に紹介したのもデヴィッドである。
 この頃、ロバートは19〜20世紀全般のヴィンテージプリント収集をコレクターのサムと始め、73年、老舗「The Gotham Book Mart & Gallery」(2007年5月閉店)で開かれたグループ展で初めてポラロイド作品を出展。同年、アップタウンの「Light Gallery」で、初のポラロイド作品による個展を開いている(今回の172号表紙で使用した作品は、同ギャラリーの個展でのオープニングの招待状に使用されたモノ)。
 それから約3年後、彼が得意とする男性のヌードやSMプレイの写真以外の、もう1つのテーマである「花」を加えた個展が「Holly Solomon Gallery」(172 Mercer St.)で開かれている。
 当時、彼はサムに「ハッセルブラッドカメラ」(Hasselblad 2 1/4-inch)を与えられ、アンディ・ウォーホルの雑誌「インタビュー」(Interview)のフォトグラファーとしても活躍。また1980年代に入ってからは、彼が撮るポートレイトの評判がドンドンと高まり、俳優のリチャード・ギア(Richard Gere)など各界の有名、著名人のポートレイトを次々と手掛けている。
 この頃、彼のスタジオ兼住居は、チェルシー(35 W. 23rd St.)に移っており、イーストビレッジのスタジオは暗室として残し、3400スクエアフィートからなるチェルシーの物件でサムと生活していたという。当然、同物件は、サムが彼のために当時50万ドルを出資してトップフロアに設けたもので、調べてみると2008年現在、同物件(同左)は大手不動産会社「コーコラン」(www.corcoran.com)などが扱い、350万ドルで売りに出されている。f0055491_2321239.jpg
 イブ・サンローランなどの雑誌広告写真も受けるようになり、彼は商業写真でカラー作品も数多く扱うようになる。しかし、彼の焦点は、作品がカラーかモノクロか、ではなく、もっと違った手法による表現法を模索していたようだ。麻や絹にプラチナプリントを施したり、作品を飾るフレーム自体にこだわったりと、初期におけるコラージュ作品の面白さに固執していた感は充分見て取れる。

新たなる作家たちへのメッセージ-------ホイットニー美術館で回顧展
■86年、彼は40歳でエイズを告知される。初の個展からわずか16年、いよいよこれからという最盛期だ。
 そして翌87年、生涯、彼が最も愛したとされるサムを亡くしている。サムの告別式で彼は友人に「次はボクなんだ」と漏らしている。
 告知から死を迎えるまでの3年間に恋人を失い、エイズ差別が強かった当時、病魔と戦う彼は、日々どんな思いで暮らしていたかについては誰からも語られていない。
 しかし、死を迎える前年の88年、ホイットニー美術館(Whitney Museum of American Art)で行われた彼の回顧展を観に来た彼自身(同右)を見て、また、展示されている彼のモノクロのポートレイト作品群のすぐ横で、白黒の明暗をハッキリ付けるかのごとく、対照的に小さくなって車椅子に座っている彼の形相を見て、そのショックからなかなか立ち直れなかったと語る友人は多い。f0055491_734280.jpg
 もし彼が生存していたなら今年62歳である。
 彼が亡くなって約20年もの月日が流れ、ゲイの人たちに対する偏見も薄れ、徐々に人権も認め守られるようになって来た。
 21世紀に入り、時代は益々変わったといえる。写真はデジタル化されコンピューターを駆使したCG作品やコラージュ作品が世に溢れかえっている。
 メイプルソープを知らない、もはや芸術に異なった観点を持つIT世代と呼ばれる新人類が現代アート界を牛耳る中、新たなる作家たちへのメッセージとして、彼の回顧展「POLAROIDS:MAPPLETHORPE」が、再びホイットニー美術館で開かれている(同展の詳細はtocoloco参照)。

*「アンディ・ウォーホル」のポートレイトは「Robert Mapplethorpe Foundation」(メイプルソープ財団/www.mapplethorpe.org)所蔵、「サム・ワグスタッフとロバート」2人一緒のポートレイトはスタッテン島生まれの写真家、フランチェスコ・スキャバロ(Francesco Scavullo=04年1月没)が74年に撮影したもので「Francesco Scavullo Foundation」(フランチェスコ・スキャバロ財団)が所蔵、それ以外のポートレイトはメイプルソープ財団協力による今回のホイットニー美術館(Whitney Museum of American Art/www.whitney.org)からの提供

2008年8月15日号(vol.172)掲載
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by tocotoco_ny | 2008-08-12 02:21 | 2008年8月号