私は安モンのキラキラの装飾品をよく身に着けている。安モンは安心して衝動買い出来るし、リスキーな冒険で失敗しても、なくしても素早い立ち直りが可能。
ママ友の集まりに行くと、決まって私の手や首筋を素早く、しかし念入りにチェックし、その日の「ゴージャスな一品」を確認する4歳のファッションディーバがいる。彼女は決して「ちょっと着けてみたい」とは言わない。たいてい「そんな大っきいのして、重くないの?」とか、「私も似合うかな〜_」などと、突っついてくる。先日、3センチ四方もあろう青いガラスの入ったシルバーリングに、その子が目を丸くした。「こんな大っきい指輪見た事な〜い」その時の彼女の目には、いつもの「ちょっといじらせて」といった軽い期待感はなく、むしろ憧憬を織り交ぜた畏れが見てとれた。憧憬は言い過ぎか。どちらかというと、「あんた大人のくせに何考えてんだ?」とでも言いたげな、ちょっと非難めいた視線かもしれない。私は「ちょっとはめてみる?」彼女は「やばい、どうしよ、心の準備が。おかあさーん」といった表情でうなずく。指に通してあげると、まるで、取り返しのつかないことをしたような、一線を超えてしまったような、恍惚で、痛快で、アドレナリンな顔を私に向けた。 この顔どっかで見た事あるな。ああ、思い出した。 私が小学生の頃。近所の悪ガキと帰り道、家の近くで一緒になった。この悪ガキ、公衆の面前では私を槍玉にあげることを生き甲斐としているくせに、二人きりになると、やけに口数の少ないヤツだったので、その日も、周りに同級生がいないのを確認した私は、安心してヤツに歩調をあわせた。「すげえ!」とため息をつきヤツが立ち止まる。視線の先には、黒いスポーツカー。ふーん。車が好きなんだな。すげえすげえと連発して車中を覗き込んだり、ミラーをいじったりしているヤツに見飽きた私が、そろそろ帰ろっかなと思ったのと同時に、後ろから声がした。「乗るか?」今思えば、その男は(今の)私と同い年くらいか・・・逃げたそうにしているヤツを尻目に、彼はサッと車のドアをあけ、運転席に座ると、「乗れ」自分の腿をペチッと叩いた。私が見ていなかったらヤツは逃げていたか、泣き出したかしたんだろうな。好きな女(あ、私のことね)の前で、本物の男に試されるという窮地に追いつめられたヤツは、戦地に赴くような顔で、彼の膝の上に乗った。「これ、回せ」言われるままにイグニションのキーを回すヤツ。ドゥルンどぅどぅどぅんん。「踏んでみろ」言われるままに、アクセルを踏んでみるヤツ。彼は、田舎の住宅街に、あんな車停めて何してたんだろ。 えーと、あ、そうそう。あの時のヤツの表情と、私の指輪をはめた彼女の顔の火照りは同じ温度だったってこと。腰のひけちゃいそうな興奮を必死で受け止めてたってこと。私も、ガキに悪い夢を少しだけ見させる「教育的でない大人」なったってこと。 (原文まま) *掲載号では校正、編集したものを発行* 2006年11月10日号(vol.134)掲載
by tocotoco_ny
| 2006-11-07 13:49
| オンナの舞台裏
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