「ゆうれい」
私はおばあちゃんが大好きです。 おばあちゃんは田舎に住んでいて、夏休みになるといつもお父さんとお母さんと3人でおばあちゃんに会いに行きます。 おじいちゃんは、私がまだ小さかった時になくなってしまって、今はおばあちゃんはひとりで住んでいます。 おばあちゃんの背中は曲がっていて、立って歩いていてもいつも体がくの字になっています。 私がおばあちゃんのところに遊びに行くと、いつもおばあちゃんは、 「ああ、きたんかいのお」 と言って、手でおいでおいでをしてくれます。 おばあちゃんは、ときどき川原に連れて行ってくれて、川の石の下にいるお魚を上手に手で取ってくれます。 私がやると、お魚はぴゅって逃げてしまって、ぜったいつかまらないのに、なぜかおばあちゃんがやると、お魚はおばあちゃんの手の中でおとなしくしています。 おばあちゃんのお家は大きくて、天井が黒くなっていて、お家に入るといつもすみのにおいがします。 夜になると、おばあちゃんはうどんこをねっておうどんを作ってくれます。 私はおばあちゃんに教わっておうどんこをねる役です。 できたうどんこは、平べったくして手で回す機械にいれると、下の方からおうどんが何本も出来てとても楽しいです。 それから、いつもおばあちゃんは折り紙を教えてくれます。 私も学校で折り紙をやった事があって、つるとかは出来るけれど、おばあちゃんはさいふとか、かえるとか、変わったのを一杯知っています。 おばあちゃんのところに来ると、なぜか私は元気になって、いろんなところにたんけんに行きたくなります。 いつか、たんけんをしていて、いつのまにか暗くなってしまった時、帰ったらお母さんにとってもしかられました。 おばあちゃんは、 「おまえ、そんなんしからんでもええがや」 と言って、私の頭をなでてくれました。 私はおばあちゃんの家では、いつも朝早く起きて、近くの小学校までおばあちゃんとさんぽに行きます。 おばあちゃんは腰が曲がっているので、私がふつうに歩いても、時々とまって待ってあげないとどんどんおいていってしまいます。 「東京の子かい、ああ、ずいぶんおおきゅうなったでな」 近くのおばさんにそう言われると、私は少しうれしくなります。 おばあちゃんはいつも笑って、 「そうなんよ、こげんおおきゅうなったんよ」 と自慢してるみたいに皆んなに話します。 今年の夏休みにおばあちゃんのところに遊びに行ったら、おばあちゃんは風邪をひいたと言って布団で寝ていました。 私はちょっと残念だったけど、夜はおうどんを作ってくれたし、折り紙もいっしょにやってくれたし、川原はいっしょに行けなかったけど、楽しかったです。 おばあちゃんは私の手をにぎって、何度も何度も、 「げんきにおおきゅうなるんよ、いいか」 と言いました。 私は、 「うん、おばあちゃんのおうどん食べたらもっともっとおおきくなれるよ」 と言いました。 夏が終わって、冬になりました。 ある日、お家の電話が鳴って、お母さんが取ってお話をした時、お母さんは急に泣き出しました。 おばあちゃんの具合が悪くなったとお母さんは言いました。 私はとっても心配になって、すぐにおばあちゃんのところに行きたかったけれど、学校があるので土曜日まで待ってから、お父さんと一緒におばあちゃんのところに行きました。 おばあちゃんの所につくと、おばあちゃんは布団に寝ていて、お母さんが少しつつゆのみでお水をのませてあげていました。 私が来たのがわかると、おばあちゃんは笑って、 「ああ、きたんかいのお」 と言って起き上がろうとしましたが、首のところだけしか上に持ち上がらなくて、今のんでいた水がのどにからまって、こほ、こほとせきが出てしまいました。 日曜日、私は明日学校があるので、お父さんと一緒にお家に帰りました。 お母さんはおばあちゃんの面倒を見るので、しばらくはおばあちゃんのところにいると言いました。 次の日の夜、お父さんはお母さんから電話をもらいました。 お父さんは、 「そうか、うん、わかった。明日行くから、うん、心配しなくていいから。」 とお母さんに言いました。 私は、お父さんの電話で、お父さんから聞かなくてもおばあちゃんが死んだんだって思いました。 もう夏休みにおばあちゃんのところでおうどん食べられない。 そう思うと私は急にさびしくなって、涙が出てきて、お父さんにだきつきました。 お葬式が終わって、少ししたら春になりました。 私のお家は、おばあちゃんが死んでから少しへんになりました。 お父さんはお勤めしていた会社がなくなってしまったと言って、会社に行かなくなってしまって、お家にばかりいます。 お母さんは心配してお父さんにいつも早くお仕事に行ってと言います。 お家のちょきんが無くなってしまうから、お父さんがお仕事に行かないと大変なのだそうです。 お父さんはある日怒ってお母さんのことをぶちました。お母さんはその後お部屋で泣いてしまいました。 私はお部屋に行って、お母さんに、 「だいじょうぶだよ、だいじょうぶだからね。」 と言ってあげました。 お母さんは、 「ありがとう、心配かけてごめんね。」 と言って私の頭をなでてくれました。 私はその日学校で体育があって、いっぱい走ったから眠いのだけれど、お父さんとお母さんがけんかをしたので眠くなくなってしまいました。 私はお布団に入って、私が大きくなったら、お仕事に行ってお父さんとお母さんにいっぱいお金をあげよう、と考えました。 おばあちゃんが死んで四十九日がたちました。 お墓にお参りに行って、私はお墓におばあちゃんに教えてもらった折り紙を10個もおきました。 お墓参りの夜、私はねむくなかったので、じっと天井を見ていました。 すると、私のベットの後ろから、私はだれかに頭をさわられました。 誰、と思って頭の上の方を見ようと思っても、体が動きません。 私はちょっと怖くなって、ゆうれいが出たんだと思いました。 目をじっと閉じて、はやくゆうれいがどこかに行ってしまわないかと思いました。 100数えて、ちょっとだけ目を開けて上の方を見てみました。 すると、そこには死んだおばあちゃんが笑って立っていました。 「おばあちゃん、どうしたの?どうやって来たの?」 でも、おばあちゃんは笑っているだけで何も答えてくれません。 「おばあちゃん、さびしいの?」 おばあちゃんが答えてくれました。 「ううん、おばあちゃんはさびしくなんかないよ。おばあちゃんはね、おじいちゃんが死んでからずっとひとりでさびしかったんや。でも今はおじいちゃんと一緒になれた。」 そしておばあちゃんは私の頭をなでながら言いました。 「みんななかようせなな」 私は、おばあちゃんを良く見ようと思って体を起こそうとしたけれど、おばあちゃんは私の胸に手をおいて、笑いながら消えてしいました。 次の日、私は急いでお母さんにこの事を話しました。 「あのね、きのうの夜おばあちゃんが私の部屋に来たのよ。」 「えっ、あなたも?」 お母さんはおどろいてそう言いました。 「うん、おばあちゃんね、みんななかよくしなさいって言ってたよ。」 それを聞いてお母さんは私をぎゅってだきしめました。 そして泣きながら、何度も何度も、 「うん、うん、うん」 て言いました。(「ゆうれい」完) (原文まま) *掲載号では、誤字、脱字、ひらがなを漢字に校正し、編集したものを発行* 2007年11月30日号(vol.157)掲載
by tocotoco_ny
| 2007-11-29 16:24
| ご無沙汰むかで
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