海には「棚」と呼ばれるものがある。棚によって生息する魚の種類は異なる。つまり、棚とは魚の遊泳層のことで深海魚とトビウオが交わるようなことはまず有り得ない。陸地でも熱帯あるいは極寒など特定のエリアにしか生息しない生き物やカンガルーのように生態系的に一部の地域でしか生存しない種もいる。動物園など人為的なことでも起らない限り、像とペンギンが出会うことは自然界ではない。
さて、ひと言に「人間」と言っても「人種」という言葉があるように、いろいろな種類・タイプに分類される。 辞書によれば、人種――人類を骨格・皮膚・毛髪など形質的特徴によって分けた区分。一般的には皮膚の色により、コーカソイド(白色人種)、モンゴロイド(黄色人種)、ニグロイド(黒色人種)に大別されるが、この三大別に入らない集団も多く存在する。また、人をその社会的地位、生活習慣、職業や気質などによって分類していう言い方――と、ある。さらに加えれば、国籍、趣味・嗜好、価値観、生活環境などの違いによって、同じ人間でありながら、差異、差別が生じる。つまり、人間は一見ほとんど似たような姿形をしているけれど、実は人によってまるで違う生き物ではないのか、と思ったりもする。もちろんある程度は類型・同系統に分類することはできるけれど、人間ほど多種多様に富んだ生き物はいないだろう。 日本では昭和以前ぐらいまでは身分や家柄といったものに対する意識が強かったが、今日の人間社会では、きっちりとした棲み分けがなされていないため、本来出会うことがないはず者同士が知り合ったり、関わったりする。それが面白くもあり、また時には悲劇を生んだりもする。 ニューヨーク・マンハッタン。世界中の国の人々が集まり、ミリオネイラーからホームレスまでありとあらゆる身分、階級が混在し、一つの社会を形成している。この街ほどいかに人間が多種多様であるかを肌で感じられる場所は他にないだろう。小便を垂れ流しながら寝ているホームレスの横をスパーストレッチリムジンが走り去り、全身にタトゥーを入れ鼻ピアスをした女性とウォールストリートジャーナルを読んでいるビジネスマン風の男が落書きだらけの地下鉄のシートに隣同士並んで座っている。 友人を頼って初めてニューヨークを訪れた時、私はこの街のそんな混沌とした猥雑さや危うさに魅了された。あれから20年ちかくの月日が経ち、街並も雰囲気も随分と様変わりした。そう感じるのは私自身が変わったのかもしれないが、いずれにせよ近頃この街にあまり魅力を感じなくなった。かといって、どこか行きたい場所や棲みたい地があるわけでもない。魚は水質が変われば死んでしまう。植物は地質が合わなければ上手く育たない。けれど、人間はどんな場所でも周りの環境に適応し生きてゆく能力を持ち合わせている。 棲めば都——なるほど、先人達は上手い事を言ったものである。慣れと本人の気持ち次第で暮らしている場所や環境は肯定的に受け入れるのだろう。自分の人生を振り返ってみれば、私はこれまで神奈川で生まれ育ち、高校を卒業してからは東京で暮らし、その後はニューヨークと、たった三都市でしか生活したことがない。残された時間を考えるとそう彼方此方で暮らすことは出来ないだろう。このままこの街に居続けるか、地元に帰るのか、あるいはまったく違った場所になるのか、今はまだわからいないが、どこに棲んだところでグータラでいい加減な私の生活と性格は変わらないのだろう。 (原文まま) *掲載号では、誤字、脱字は校正し、編集したものを発行* *お知らせ* 同コラムのバックナンバーは「アンダードッグの徒」のオフィシャルサイトの書庫に第1回目から保管してあります。お時間のある方は、そちらへもお立ち寄りください。 2008年10月17日号(vol.176)掲載
by tocotoco_ny
| 2008-10-18 07:31
| アンダードッグの徒
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