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vol.164/流れ<友野コージ>

 麻雀をやるときに、僕が一番気にすることは「流れ」である。今、誰に運があるのか、自分の運はどの程度か、その流れを読みながら打ち方を変えていくのだ。麻雀には手作りにおける技術や、相手の手を読む技術もある。けれど、いくら論理的な技術に優れていても、流れを感じ取ったり、流れを引き寄せる、論理では説明しにくい勘所を押さえないと、絶対に勝てないと僕は思っている。自分より明らかに運が勝っている人間がリーチをかけたら、たとえ自分がかなり良い待ちでテンパッたとしても慎重になる。逆に、自分に運が来ていると思ったら、牌の来るままに手作りをして、かなり待ちの悪いテンパイでも即リーチをする。そして、僕が最も緊張感を持つのは南家のときである。点棒状況や相手によって方針は変わるが、南家のときに3900か5200であがることを考えることが多い。親の前だから千点でもいいから上がって親を引き寄せようと思っても、肝心の東家になったとき、配牌やツモに勢いがないことが多い。逆に大きい手を狙って、もちろん上がれればいいが、手作りに時間がかかり、その間に親に連荘されたらその人間に勢いがついてしまう。従って、3900か5200くらいの手で上がろうというビジョンを立てるのだ。
 流れというものは、本当に不思議で恐ろしいものである。ツイてないときには「なぜよりによって、この牌が当たるんだ」と、自殺したくなるような気持に陥る。しかし、ツイているときには、「いやー、ラス牌のカンチャンをよくぞツモった」と、天にも昇るような気持になる。

 この「流れ」というものは、何も麻雀や花札、トランプなどのギャンブルだけに言えることではない。スポーツなどにも明らかに流れというものがある。特に野球などを見ていると、つくづく流れというものを実感する。たとえば、前回のWBC。日本は世界一に輝いたのだが、この大会では絵に描いたような流れというものが感じられた。まず、予選で日本は韓国に敗れた。次に本選のリーグ戦で韓国に再び敗れ、アメリカにも敗れ、準決勝進出は絶望的であった。ところがメキシコがアメリカに勝利するという予想だにしなかった番狂わせが起こり、日本は準決勝に進出することになったのだ。一度あきらめていたことが、運によって復活する。ここで流れが日本に来たのである。そして、二度連続で負けている韓国が準決勝の相手である。実力が拮抗しているチーム同士で、二回連続で負けている相手と、流れが来ているときに三度目の戦いをする。これは、勝つことが約束された流れといっていい。無論、こんな分析をしたら、死に物狂いで頑張った選手に失礼であるが、ファンの楽しみとして言わせてもらうなら、流れが日本に来ていたのだ。そして、韓国に勝利して、勢いそのままにキューバにも勝利したのだ。
 今年の日本のプロ野球。阪神ファンの僕としては、話もしたくないほどがっかりのシーズンであった。ただ、悪い予感は、タイガースが大差で1位のときから、僕の脳裏をかすめていた。流れが良くないのだ。そして、流れを良くする工夫もなかったように思う。オリンピックのときに、藤川・矢野・新井という主力が抜けたことや、時を同じくして高校野球のためロードが続いたということは、前からわかっていることである。僕がイヤな予感をしていたのは、9月、 10月に流れを引き寄せるために、7月、8月の間に上手に「抜く」ということが見られなかったからだ。全試合勝とうとしているように見受けられ、それがファンとして心配だったのだ。監督、コーチなどにはマスコミやファンにはわからない内部事情などもあるとは思うが、勝手なことを言わせてもらえば、10試合くらい藤川をはじめとするJFKを休ませるくらいの時期があってもいいと思っていた。それを休ませるどころか、同点でも抑えの藤川を起用する試合が何試合もあった。負けている試合でもウイリアムスや久保田を起用する試合が何試合もあった。これは、麻雀でいうところの、断トツのトップで無理せずオリればいい局面で、全力であがりに行くような行為である。結果として、ジャイアンツに抜かれたからこんなことを言っているのでは断じてない。実は昨年も、状況は正反対であったが、同じ心境になったのだ。昨年は、9月を過ぎてから3位だったタイガースは猛追して、一時はトップにも立った。けれど、ラスト10試合くらいで息切れして、結局3位に終わった。昨年は追う立場、今年は追われる立場であったが、流れという意味で同じ心境になったのだ。昨年は、いくら猛追しても絶対にタイガースは優勝できないと思った。なぜなら、タイガースが猛追している頃、中日はいい意味で力を抜いていた。勝負所のために、あえてピークにならないようにしていたのだ。そういえば、落合は麻雀が好きだ。だから、勝負勘というものがあるような気がする。ジャイアンツも昨年はペナントレースで力を使い切ってしまったような感じだった。だから、プレーオフで中日にあっけなく敗れてしまった。でも、今年のジャイアンツは違った。数字的に見れば、8月以降、もの凄い勝率で勝ち続けていたが、原監督の表情や采配が昨年と随分違っていた。つまり、どこかに余裕を残しながら、けれど必死に戦っていた。選手起用でもベテランや怪我人を上手に休ませていった。そして、チームのピークをかなり終わり間際に設定していたのがハッキリと見てとれた。
 2位になったタイガースは、中日とプレーオフをしたが、僕はもちろん勝って欲しいという願望はあったが、「今年は終わった」と思って、たいして結果を気にしなかった。どう考えても中日に勝てる流れではなかったし、よしんば中日に勝ったとしても、ジャイアンツには絶対に勝てないと思った。ペナントレースで大逆転を許したジャイアンツに、再びプレーオフで負ける屈辱を目の当たりにしたくなかったから、もう中日戦で負けていいとも思っていた。結局、1 勝2敗で敗れた。紙一重の接戦のように見えるが、僕は負けるべくして負けたように感じた。第三戦、0対0で迎えた9回に藤川がタイロンウッズに決勝ホームランを打たれて負けた。タイガースの宝である球児を責めるつもりなど、毛頭ない。第一戦、0対2で負けている9回に藤川を投げさせた。藤川は三者凡退におさえたが、結局9回裏に点を取れずに負けた。第二戦は、勝っている状況で、藤川が9回を抑えて勝利した。もしも、というのは結果論ではなく、流れとして、第一戦に藤川を使わずに負けていたとすれば、第三戦に藤川がタイロンウッズにホームランを打たれなかったのではないか。僕はそう思えてならない。
……僕は、就任したときから岡田監督の采配には、ファンとして不信感を持っていた。でも、中日に敗れた最後の試合が終わったあと、岡田監督が顔をぐしゃぐしゃにして涙を流していたのを見たら、やはりジーンときた。
 タイガース万歳! サヨナラ岡田!
(原文まま)
*掲載号では、誤字、脱字は校正し、編集したものを発行*
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2008年10月31日号(vol.177)掲載
by tocotoco_ny | 2008-10-31 09:46 | ニッポンからの手紙
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