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vol.85/帰って来たアメリカナイズ<むかでのすきっぷ>

巨食症になる(3)
 成人の胃のサイズは、通常本人の握りこぶし大の大きさなんだそうであるが、最大膨らんで成人男子の場合、約1400~1500cc程度になるそうである。
 胃拡張とは、本来胃の内容物が十二指腸にスムーズに移動出来ない状態が続く事によって起こるものなのである。
 生物学の理論で、『アロメトリー』(Allometry)というのがあって、これは生物の特定の器官のサイズが変わる事によって、プロポーションや寿命、代謝率などが変わって来るという学説なのであるが、この理屈によれば、胃のサイズが変わって来ると、当然それに従って体型も変わって来るという事になる訳で、大変失礼ながら、体重が200Kg位にまで肥満してしまった方の胃は、相当肥大していると思われるので、それに合わせた外見の変化というのが認められるのではないかと思うのである。そう言えば、なるほどそれらの方々の体型というのは、何故か映画『スターウォーズ』に出て来るジャバ・ザ・ハットに似て来るというのはものの道理という事になるのである。
 然し、とっても沢山食べるくせに、何故か痩せている方というのも居られる訳で、世間ではこの種の方を『痩せの大食い』と呼ぶのであるが、これは一体何故なのだろうか。
 むかでは当初この問題は、ご本人の胃拡張のせいだとばかり思い込んでいたのであるが、どうやら違うのであって、この現象は、ご本人の胃の形状に関係しているらしいのである。要は胃下垂の方が痩せているのである、というお医者さんの見解があるのであって、胃下垂だとどうして太らないかと言うと、胃下垂の方の場合、腸との境目である胃の弁の部分が、下垂した胃の圧迫により正常に機能しなくなって、十二指腸への弁が開きっぱなしとなり、食べたものが胃から腸にストレートに運ばれてしまう為、あまり胃での消化がされずに、結果最後の砦(この門は見る事が出来るが)まで未消化で通過してしまい易いのよ、という事らしいのである。より正確に言うならば、胃下垂だから痩せるのではなくて、痩せているから胃下垂になり易いという関係にあって、痩せている方は太ろうと思って一所懸命食べたとしても、胃下垂だから太れないのよ、残念でした、の関係にあるらしいのである。しかしこの胃下垂は、日本の女性の場合は実に3分の1の方がその気があるというから驚きではないか。女性の場合には、モデルさんのようにスリムな体型を志向される方が多いだろうが、痩せてるから太らないんだよ、と言われた日には、ダイエットのし甲斐が無くなっちゃう研究報告でもあって、これまたお気の毒な限りなのである。

 余談であるが、人類の胃下垂に非常に近い胃の構造を持っている動物は何か、ご存知だろうか。それは、金魚さんなのである。金魚さんを代表とする、コイ科(鮒とか鯉)の仲間達は、胃が無いのである。胃が無いので、食べ物を溜めるところが無く、そのまま食べたものは腸に流れて行ってしまうので、胃で消化が進まないという意味からすれば、胃下垂の方と金魚さんは、内臓の構造が似通っている訳であるが、金魚さんの場合には、胃下垂のように胃が垂れているのではなくて、本気で胃が無いのであるから、そもそもそんなに沢山のものを一辺に食べる事が出来ない動物なのである。なので、金魚さんを大きく育てようと思って一度に沢山の餌をあげるのは禁物なのである。
 むかでも一時期、観賞用として金魚さんを飼っていた事があるが、その愛くるしい容姿とは裏腹に、うんちの切れが悪いのはどうも頂けないと、常日頃、眉をひそめていたのであるが、彼等の体の秘密を知ってしまってからこのかた、ある種憐憫(れんぴん)の情をもって長いうんちを眺められるようになったのである。

 ところでそもそも人間は、どうやってお腹が一杯だと感じて食べるのを止める事が出来るのだろうか。胃は、人の満腹感を感じる為の器官でもある訳であるが、何故お腹一杯だと感じるかと言うと、それはちゃんと体にはお腹一杯を感じるセンサーが付いているからである。きっとそれはむかでがご幼少の頃、工夫クラブ(小学校内の天才発明家の集まりとでも理解頂ければ分かり易い)で作成した『お風呂ブザー』の構造に酷似しているに違い無いのである。但し、人間の体のお風呂ブザーの場合には、未だその構造が完全には明らかになってはおらず、現在でも諸説が唱えられているが、従来までの有力説は、脳の視床下部というところにある満腹中枢と、飢餓中枢というところの調整具合で決まるのであると言われていて、これは血中のグリコーゲンの量によるのよと、この40年間ずっと信じられて来たらしいのである。だが最近では、どうやら体内で分泌されるホルモンによって摂食量がコントロールされているという説が有力視されているのであって、名前は『レプチン』という食欲を抑制しちゃう物質と、『グレリン』というレプチンの作用自体を抑制する物質の2つが、脳の満腹中枢への刺激を制御しているという事らしいのである。
 むかでは、ご幼少の頃から、わんちゃん(犬)には満腹中枢が無いから、面白がって沢山餌をやるとお腹が破裂するほど食べるので、餌は一度に沢山あげない事と、おたあさま(注:お母様の事)から教わった記憶があるのだが、どうやらわんちゃんにもいろんな種類が居て、満腹をすぐに感じる種類も居れば、そうでなく無限大に食べる種類も居るという事に最近気付いたのであって、寧ろ沢山餌をあげちゃ駄目なのは金魚さんなのであり、こちらは間違いの無い話なのである。
(原文まま)
*掲載号では、誤字、脱字は校正し、編集したものを発行*
2008年11月14日号(vol.178)掲載
by tocotoco_ny | 2008-11-13 06:28 | ご無沙汰むかで
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